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小説『引越物語』⑨家族の絆

夫の正雄が、わたしの表情に気がついた。

「なんか文句があるがかぇ?いっぺん建てたら直すのは難しいき、なんかあったら今のうちに言いや。」

「家のことじゃなくて、さっき二人って言ったよね。なんでなん?」

知りたい、知っておかないとと思う反面、わたしは何を言われるのかと内心とても怯えていた。

少女のようにスキップしていた菜摘が応えた。

「なっちゃんね結婚するが!おめでたいやろ?」

け、け、けっこん!!!!!

いつ誰とするというのだ。寝耳に水もいいとこだ。今のマンションだって、障がいのある菜摘が一人で暮らすのは心配だから同居しようとわたしから申し出て広いところへ引越してきたのに…。

頭が痛くてたまらない
誰か助けてください!!

「夫婦水入らず。新築の平屋住まい。えいろー。」
正雄は満面の笑みである。

喜ぶのが普通なんだろう。義妹との同居が終わるのだから。


これからは正雄と二人。

何を話してどう暮らせば良いのだろう。10年も菜摘が側にいて、わたしは苦労しているかのように文句ばかり言ってきたけど、違う。そうじゃなかったんだ。

菜摘がいたから離婚もせず、菜摘がいたから仕事も踏ん張れたのだ。

それなのに…これからどうしよう…。

凪の人生は、いつだって誰かのために在った。

突然アンカーを切り離されて、港がどんどん遠ざかっていく。

海は凪いて、とても綺麗だ。



#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

次はここに来てねん🏞️



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上湯かおり
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