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光州ビエンナーレ2024に行ってきた【展示振り返り編】

9月26日〜29日にかけて、光州ビエンナーレを見に韓国に行ってきました。

こちらの記事では、思いたったきっかけや、行ったルート、現地の回り方のおすすめなどをまとめました。全文無料です。

今回の記事では、実際に展示を見てよかった作品や感想などを残したいと思います。こちらはメイン会場パートまで無料で読めます。


全体テーマ、誤解していました

30周年となる今回のビエンナーレ。タイトルは「パンソリ―21世紀のサウンドスケープ(Pansori a soundscape of the 21st century)」。パンソリ、とは韓国の伝統芸能で、打楽器によって奏でられる音楽にあわせて歌い手が物語性のある歌を歌います。CLAMPの初期作品の題材となっている『春香伝』や、最近webtoonの題材として取り扱われてヒットしていた『沈清伝』なども、もともと「春香歌」、「沈清歌」というパンソリとして民衆に広まっていたようです。

今回のビエンナーレに行くぞ、と思い立った理由は、テーマに「パンソリ」が据えられていたからだったのですが……、私はかなり大きな誤解をしていました。人が歌い奏でる伝統芸能ジャンルがわざわざタイトルに据えられていること、もう少し政治やフェミニズムによったアートを想定していたのです。あと「パンソリ」という韓国語の原義を「私たちの(パン)/声(ソリ)」だと勘違いしていた……。「場の(パン)/声(ソリ)」でした。

全体指揮をつとめたのは、フランス出身の批評家・キュレーター、ニコラ・ブリオー。

上記の記事によると、このニコラ・ブリオーが「現在の気候変動と環境危機に対するアーティストの反応」というテーマに取り組んでおり、今回のビエンナーレもその流れに位置していたようです。

TABの記事にも書いてあるとおり、人と環境のつながり、人新世が中心の美術祭でして、メイン展示に関しては、韓国である意味、光州でやる意味は、若干薄くも感じました。でも、振り返ると、ヴェネチア・ビエンナーレもそんな感じだったか。光州のビエンナーレだから、ということで、ちょっと見当違いの期待をしてしまっていた自分がいたようです。
とはいえ逆に言えば「自分って環境問題への興味が薄かったんだな」「環境問題って日本で感じている100倍くらいの肌感で危機を持たれているんだな」ということがわかる鑑賞体験で、おもしろかったです。

いざメイン会場へ

9月27日の朝、カフェで朝食をとった友人と私は、オープン時間にあわせてメイン会場に向かいました。

それなりに観光客がいるのかしら…と思ったのですが、皆無!この日は金曜日。休日だったらまたちがったのだろうか。

なんかNCT WISHがアンバサダーらしい

代わりに群れをなしていたのは、社会科見学とおぼしき子供たちの集団。小学校高学年、低学年、もはや園児……?くらいの子供たちもきており、かなり微笑ましかったです。
館内では美術作品の前で決めポーズを撮る園児たちのフォトシューティングがひたすらに行われており、現代の先生、大変そう・・・と思った。

よくよく見ると先生がしゃがんで集合写真を撮っている

チケット18000ウォンを購入して会場へ。中は1〜5のギャラリーに分かれており、フロアを上ったり、棟を行き来したりという移動をしつつ、「Feedback Effect」「Polyphonies」などの小テーマにあわせた展示を鑑賞していく流れでした。全体をゆっくり見て、2時間くらいだったかな。

すべてを見たい方はぜひ会場へ、ということで、このnoteでは印象にのこった作品とアーティストに絞って紹介。

ミラ・マン《objects of the wind》

引率の先生がいないので自分で撮りました

Feedback Effectのエリアで存在感を放っていた作品。ミラ・マンはデュッセルドルフとパリを拠点とする女性アーティストです。韓国にルーツを持つ彼女は本作で、韓国の伝統的なモチーフと彼女自身が培った感性を絶妙なバランスで両立させており、とても心惹かれました。

ミラ・マンの作品は、日本のメディアでも過去に記事になっていました。ギャラリーN/A、行ってみたいな……。

https://www.gqjapan.jp/article/20240129-soul-art-drive-vol3

《objects of the wind》は、楽屋のような横長の鏡台に、看護師を彷彿とする写真や衣装と、民族芸能「プンムル」にかかわるアイテムが配置されているというもの。よく見ると鏡にもnursing schoolという学名や、新聞記事のテキストなどが印字されています。冷戦時代、西独に韓国から1万人の看護師が派遣されたという史実を題材に、その看護師たちの記憶を投影する装置のような作品でした。

もともと鏡や丸いライト、スチールの台などを利用して「記憶」と絡めた作品を作っており、今回はそれを発展させて、光州ビエンナーレに合わせた新作としたようでした。

個別会場の作品もすばらしかったので、後述します。

ハリソン・ピアース《Valence》

実験室のホルマリンにぷかぷかとうかぶ脳みそに見えた。そしてタイトルを「Violence(暴力)」と勘違いしていた。実際には「Valence(免疫)」でした。
ハリソン・ピアースはロンドン在住のアーティスト。こちらの作品、見た目だけでおもしろいなあと思ったのですが、どうやら音のインスタレーションだったらしい。聞きそびれた…。

ガレ・ショワンヌ《Steles(Port-au-Prince, Haïti) 》《Eat me softly (Black unicorn) 》

どの展示よりもまじまじと眺めてしまったのが、ハイチ系フランス人アーティスト、ガレ・ショワンヌ(Gaëlle Choisne)の作品。Stelesは、自然災害で破壊されたハイチの廃墟を撮影したシリーズで、Eat me(Softly)は果物に黒人フェミニスト・Audre Lordの詩を刻みつけるシリーズ。光州ビエンナーレの会場では「Black Unicorn」という詩がハングルで刻まれており、非常にかっこよかった。

果物はほんものなので、会期の間も少しずつ萎びていっており、それがおもしろいねと友人と盛り上がりました。

ヘイデン・ダナム《The Return:Finally Free》

アクリルをはじめいくつかの種類の素材で作られた、何とも形容し難い作品。つかみどころのない、川の流れのような風情があって目を奪われました。どうやら「人工知能ではない方法で進化する活性炭(????)」を独自開発して使っているらしい。何度読んでも意味がわかりませんでした。

ソフィア・スキダン《What do you call a weirdness that hasn’t quite come together?》

事前のメディアレポートなどでもよく取り上げられていた作品。雄大な自然と、サイバー世界でサイバーな格好をしたサイバーシャーマンがぐんにゃりぐんにゃりと四肢を曲げながらサイバー祈りを捧げている映像が入り乱れながら映される。
作品そのものだけでなく、縦長プロジェクターの映像を床のクッションに寝そべってぼーっと観れるという鑑賞体験が良かった。横になって見れる作品にいつも無意識に加点しているかもしれない。
あとイヴ・クラインも大好きだし、「青」という色が持つ魔力みたいなのに結構惹かれる。自然の中にあるのに、不自然な色。

クォン・へウォン《Cave of Portals》

"The sound of an old cave woman washing clothes"
"The sound of crying of hunger"

韓国国内の、とある洞窟の映像に重ねられる音と、その音の解説によるインスタレーション。洞窟の中に微生物が発生してていく過程に耳を澄ませていたはずなのに、いつのまにか、人間がやってきて、生活がはじまって、虐殺が起きて。そこからまた洞窟の原初に時が遡って、ビックバンが起きて……。シンプルな発想なんだけど、だからこそあれこれ考えずに没入できて楽しかったです。

各国パビリオン

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