20240806『若き日』セルフライナーノーツ⑯
Photo by Mikio Kitahara
ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。
「17 二人の会話」もまた、私が選んだシーンだった。作中、特に前置きなく著名な作家や俳優が現れてくるこの作品のなかで、特に驚いたのが澄江君こと芥川比呂志の登場だった。ある時「あ、これ芥川比呂志だな」と気がついたときには、ちょっと興奮した。
▼新劇ということについて、これまで人並み以上にいろいろと考える機会はあった。通っていた養成所が一応は新劇の劇団だったから、その成り立ちや歴史について一揃いの知識は持ち合わせていた。どれだけその言葉が形骸化していて実を失っているとしても、曲がりなりには一応関係があるし、自分たちのルーツでもある。
▼そんな新劇の、戦中の一番苛烈な時期を過ごしているはずの芥川比呂志が、とくに前置きなどなく小説の物語の中に出てきて、そこにいた。そうして主人公の青年と一緒に東京を歩いて、電車に乗って、何気なく話しながらもっとも大きな懸案事項ともいうべき事柄について口にする。どことなく現実感の欠けた、シュールな場面だと思った。だから、二人一役で上演してみようと思った。劇団としてのフルフルのメンツで、この場面を語り込んでみたいと思った。
▼人は往々にして、一番の大問題について口にすることができなくなる。その問題があることはわかっているし、みんな気がついているのに、なんとなく言葉にするのが憚られていつの間にかそれについてうまく話せなくなってしまう。タブーと言えばタブーだが、そうではないなにか気の進まない何かによって引っ張られて、限りなく後回しにしてしまうような問題。主人公の堀田氏がそれについて思わずこぼした相手が、芥川比呂志だったというめぐり合わせを、なんだか奇妙だなと思っていた。
▼とある劇作家の本の中で、「新劇がある時期衰退したのは、共産党からのオルグが原因ではないですか」と訪ねられた新劇の劇団の俳優が「わからない。そんなことは考えたこともなかった」と返すくだりがあった。なんというか、その鈍さ、“考えてこなさ”について私たちは考え続けていかなければならないと、このシーンを読んだときに思った。
▼会場となった戸山公園が、かつて陸軍の軍楽隊の演奏場跡地だったこともまた、このシーンを選ぶことの後押しとなった。作中にはそのバイオリンの音色だけを響かせる芥川比呂志の弟の芥川也寸志は、かつて陸軍の軍楽隊に所属していた。音楽はそれ自体自立している。どれだけシンプルな音の組み合わせでも、きれいな旋律はいつ聴いたって美しい。でも演劇は、と思う。戯曲は残るけれども上演は残らないし、演劇ができるかどうかは時の情勢に大きく左右される。それがどんな時代であれ、俳優はそこで最善を尽くすより他ない。一応新劇から演劇活動をスタートして、来年には10年目を迎える。これから自分たちがどんな時代を迎えるのだろうと、考えずにはいられなかった。
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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02czx9t72zj31.html
【公演詳細】
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