見出し画像

20250221 岸田國士という名前

毎年これくらいの時期になると、なんとなく気になるのが岸田國士戯曲賞の行方なのだった。漫画の『BECK』の終盤に出てくる” Devil’s Way”という架空の曲があって、その中に” Each do their best in their own surroundings ”という歌詞が出てくる。この世界には天使と悪魔みたいなそれぞれの立場の人たちがいて、それぞれの場所で人類を進歩させたり後退させたりしている、というような内容で、なんとなく岸田賞の時期になるとこの歌詞が頭に浮かぶのだった。

▼想像しているよりもはるかにたくさんの演劇がこの国にはあって、優れた大切な作品を見落としてしまわないようにたくさんの人たちがこの戯曲賞のためにそれぞれの仕事をされていることがたぶん10年前よりはすこし想像できるようになった。ひとりの演劇ファンとして「どんな作品があるんだろう」「どんな世代の人たちなんだろう」「どんな講評が出るんだろう」ということを楽しみにしながら、候補作が公開されるのを楽しみにしている。

▼最近折にふれて考えているのが自分自身の男性としての加害性、みたいなことで、考えても仕方がないことではあるもののつらつらと考え続けていた。「なるべく誰も傷つけずに生きていたい」みたいな、房の中に籠って過ごす僧侶みたいなことを考えていた時に日本の近現代の演劇史について勉強し直す機会があった。

▼坪内逍遥が実は洋行したことがなくて、海外の演劇を見る機会についに恵まれなかったことや、演劇がその本質的な輸入の難しさからついに体系立てて教育に取り入れられることのなかった寂しさであるとか、築地小劇場が生まれるに至る奇跡みたいな偶然の積み重ね、みたいなことをみていくうちに出てくるのが岸田國士という人なのだった。

▼文学座の創設者の一人であって、一番大きな特徴というのが太平洋戦争中にこの人は大政翼賛会に参加し、政府に戦時協力することで文学座は戦争中も演劇を続けることができたということだと思う。他の劇団や演劇人がゴリゴリに弾圧されまくっていた中で、それは異例のことだった。そうして終戦後いっときは公職追放もされた岸田國士が、しかしその後ある部分では許され、カムバックして戯曲の賞にその名前を冠するにいたった。

▼この話の肝は「とはいえ、岸田國士のおかげで国内で演劇活動を継続することができ、戦争に行かずに済んだ俳優や演劇人がたくさんいた」ということであるらしい。功罪、といえばただそれだけの話ではあるけれど、岸田國士という名前には本来そういう、簡単には割り切れない重みが含まれているということをあらためて知った。

▼人は自分が被害者である、と思いたいし、自分が正しいという前提で考え続けたい。けれども時代や歴史というはるかに大きなうねりの中で自分の信じることを為そうとした時に、そう簡単に割り切れない局面が出てくる。「そうか」と、すこし腑に落ちる思いがした。「一生懸命生きていれば誰かの人生では悪役になる」という、漫画の一コマを思い出したりもした。どうせ組み合うのなら、そういう途方もなく大きな流れやうねりを相手にして、ぐしゃぐしゃにされたい。そしてそのために鍛えたい、と思った。

*****

◆2024年の年末に『桜の園』ソロ・こごえという作品を上演しました。https://note.com/hiraoyogihonten/n/n061602834a82?sub_rt=share_sb

◆毎週水曜日に西早稲田近辺で舞台俳優のためのファンダメンタル(基礎トレーニング)を実施しています。

◆2024年5月にはじめての野外劇を上演しました。
平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
【公演詳細】

◆2024年5月、上記公演の実施にあたって平泳ぎ本店は戸山公園で野外劇を上演するための所作台(舞台床面)を製作するための資金調達に取り組み、日本全国の73名の方々から535,000円の応援をいただき無事に成功しました。ありがとうございました!
【平泳ぎ本店 クラウドファンディングについて】
「一枚の舞台の床が、才能のゆりかごに。
野外で自由に演劇を上演できるようにするための所作台をつくりたい。」

◆本日もご清覧頂きありがとうございます。もしなにかしら興味深く感じていただけたら、ハートをタップして頂けると毎日書き続けるはげみになります!

◆私が主宰する劇団、平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co . では向こう10年の目標を支えて頂くためのメンバーシップ「かえるのおたま」(月額500円)をはじめました。
メンバーシップ限定のコンテンツも多数お届け予定です。ワンコインでぜひ、新宿から世界へと繋がる私たちの演劇活動を応援していただければ幸いです。
→詳しくはこちらから

◆コメント欄も開放しています。気になることやご感想、ご質問などありましたらお気軽にコメント頂けると、とても励みになります。どうぞご自由にご利用ください。

平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第9回公演
『(タイトル近日発表予定)』
2025年 初夏
続報をお待ちください!

ここから先は

0字

かえるのおたま

¥500 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?