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20240903 毒霧と白塗り

なんとなくずっと憧れていて、未だ手を出していない表現のひとつに「白塗り」がある。顔や手足を白く塗る、白塗りである。寺山修司などを筆頭とするいわゆるアングラ演劇の得意技でもあり、舞踏でもやはり体中を白く塗って舞台上で表現する(舞踏の場合は全身金粉で塗るパターンもある)。10年も劇団をやっていたらこれまで何かの拍子に一度か二度白塗りにしていてもよさそうなものだけれども、結局一度も挑戦したことがない。

▼単純にどうやって白く塗ったらいいのかわからない、ということがある。詳しい人に聞くときれいに白塗りにするためのノウハウみたいなものがきちんとあって、必要なメイク道具や衣裳の養生、ムラにならない塗り方や終演後のメイク落としなど、結構コツが必要なものらしいことは仄聞して知っているので、なんだか面白半分には手をだせないのだった。

▼代わりに、といってはなんだが毒霧を吐いてもらったことならある。プロレスでグレート・ムタが口から吐く緑色の霧である。緑色の食紅で毒霧の素をつくり、稽古場の駐車場でどう吐いてどう吹きかけたら綺麗に見えるのか試行錯誤を重ねて何度も吐いてもらった。なんども緑色の液体を口から吹きかけられるという異常事態にも関わらず、毒霧を吹きかけられる俳優が終始おだやかな表情だったのが忘れられない。優しいやつだな、と思った。

▼なまじ自分の松本という苗字と「白塗り」という要素が一緒になると、どうやっても外からは維新派のパチモンにしか見えないのではないかという恐怖もある。それで音楽に合わせてリズミカルにステップを踏んだりしていたらもう目も当てられない。野外劇をやっていきたい、という方針ともぴたりと合ってしまっているので、そうなると逆に主宰である私がステージ上で人の便を食べたりしないと話のつじつまが合わなくなってしまって、いよいよ困るのである(松本雄吉さんの有名なエピソード)。

▼あるとき昔維新派に出演していたという人とワークショップで一緒になったことがあって、なにかの拍子に「維新派は俳優の運動量がすごくて、野外劇で舞台上の長い距離を走らなければならないのだが稽古中にケガをしてしまい、それでも本番に穴を空けることはできないので足首をテーピングでガチガチに固めて本番をやった」という話を聞かせてくれたことがあった。それはおそらく苦労話のトーンだったけれども「稽古中にケガをするのは俳優として準備不足」「スラムダンクの海南戦のゴリも同じようなこと言ってたな」と思ってしまい、なんだかうまく感情移入しきれなかったのを今もちょっと申し訳なく思っている。

▼実際のところ舞台上で白塗りにすることの抜き差しならない必然性みたいなものがまだ私の中では見つかっていないのである。それは逆に言うと、私が白塗りの人を目の当たりにしたとき心の中で「なんで?」と思ってしまっている、ということでもある。生身の肉体を否定する、であるとか生者と死者の間に立つ、であるとか、それらしい理由は頭では分かっているものの、それはそれとしてほとんど条件反射で「なんで?」と思ってしまっている。逆に一度舞台上で白塗りであることの必然性を感じ取ってしまったら、それは確固たるスタイルとなってそこから離れられなくなる可能性もあって、それも怖いのである。白塗りはまだ早い。七色の毒霧を吹きまくっているくらいが、ちょうどいい気もする。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
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『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
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※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
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