20240929 黒ビールを舐めながら
なんだかいわゆる「俳優の役作り」みたいなことに関して、巷では諸説あることをまず承知している。どっちかというと映画やドラマの俳優の役作り、たとえばヒーローを演じるのに体を鍛えて体重を増やしました、とか、病んだ人を演じるために歯を抜きました、とか、なんかそういう類の話である。
▼「デニーロ・アプローチ」という言葉があるくらい、たとえばニューヨークのアクターズスタジオの系譜というか、そういう徹底的な映像的なリアリズムを追求した役作りというのはまあ一般にもそれなりの説得力があるのかなぁ、と思ったりする。俳優がそういう風にして顔や体の形を変えることで観客からしても「お、頑張っているな」と思えるし、何やってんだかわからない俳優の仕事を捉えるためにもまずは外面のそういうわかりやすいところから、というのはあながち間違いではないような気がする。
▼何かの番組で、日本の俳優の柄本明さんが舞台で『ゴドーを待ちながら』を演じるために、作者であるサミュエル・ベケットの生まれ故郷であるアイルランドを訪れ、地元のパブで黒ビールを飲んでいる映像というのを観たことがあった。それもまあ、言ってみれば役作りを追ったドキュメンタリー、ということだろうと思った。
▼私は(すかさず)「はあ?」と思った。俳優が黒ビール舐めてベケットに対する理解度が深まるなら苦労ないだろ、という思いが湧き上がってくるのを、ぜんぜん止めることができなかった。たぶんその番組はNHKの製作だったのだと思うのだけれども、有名俳優が国営放送局をともなってアイルランドへ赴き、『ゴドー』の上演のための取材として黒ビールを舐めているというその構図がもうなんだか「もうええてーー!!」という気持ちを催すのに十二分だった。
▼たとえば日本にいて、日本でお酒を飲んでいる者たちが日本の演劇作品を上手に上演できているか、といったら甚だ疑問だし、逆にそれでうまくいくならシェイクスピアを上演しようと思ったらイギリスへ行ってパブで(あるいは日本のHUBとかでも)ビールを飲めばみんなうまくいくだろ!!!という気持ちがもう抑えきれなかった。というか舞台のための取材で海外に行けてる時点でなんだかもう羨ましくて、嫉み嫉みで燃えるような気持ちだったのだった。
▼俳優の役作り、ということに関して個人的にはリアリズムを自分自身の演劇の軸として採用していないので「じゃあ亡霊の役を演じるといった時にお前は一回死ぬんか!?」というくらいには、基本的に不真面目に構えている。まあでも本当に亡霊の役を演じたときに「あの人役づくりのために一回死んだらしいよ…」という噂がまことしやかに立つような俳優さんなら、それはきっといい俳優さんだろうな、とは思うのだった。
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