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20240828 鼻が生む物語

昨年来日していた太陽劇団の『金夢島(かねむじま)』という、フランスの劇団が製作した日本が舞台の作品を観ていて、彼らは欧米の人達なので、日本人を演じるためにその高い鼻をぺしゃっと潰すためのマスクを顔に付けているのを見て「ああ、日本の新劇と正反対のことしてらあ」と思ってしみじみとしてしまった。

▼太陽劇団のことなので、もしかしたら綿密に取材をして日本の新劇の付け鼻の伝統を逆手にとって私たちに見せてくれたものかもしれなかった。欧米の人達がわざわざ鼻を潰して低くしたとて別に日本人の私から見るとかれらはてんで日本人には見えず、アジア人を意識したなにか別の生き物みたいになっていて、ちょっと歪な感じがした。

▼鼻は顔の真ん中にあるのでその印象が変わると他人からの見え方も大きく変わる。今でも鼻を整形手術する人もいるわけで、まあそれはそうだよなと思いつつ、むかし外国の演劇を日本に取り入れるためにまず形から入り、外国人の顔立ちに似せるために付け鼻をしていた日本の新劇の先人たちの努力を思うと本当に涙ぐましいものがあるなと思う。

芥川龍之介にも『鼻』という小説があるくらいなので、目や口ではなく鼻というのがやはり外見上のコンプレックスの大きな源になるものらしい。たとえば日本の天狗というのも鼻がずば抜けて長いことにその特徴がある。ピノキオも嘘をつくと鼻が伸びる。外見上の違和はすべて顔の中心である鼻に結実する。

▼『シラノ・ド・ベルジュラック』も主人公のシラノの鼻が大きいということがすべての物語のきっかけになってはいて、そう考えると古今東西いろんな物語の主人公が鼻で苦しんでいることになる。冒頭の太陽劇団ではないがその”鼻”を舞台で表象するのにどうするのがいちばんふさわしいのだろう、ということをずっと考えていたりする。2018年に演出の課題として『シラノ』を扱ったことがあって、それ以来ずっとではある。

▼しかも日本人が『シラノ』を演じるといったとき、たとえばシラノが書かれたフランスなら、フランス人ならもともとみんな高い鼻が主人公のシラノはさらに輪をかけて高く大きいことで、過ぎたるは猶及ばざるが如しみたいなことになっているのだから、日本人なら顔が平たいことがもっと過剰に表現された、むしろ鼻が陥没してるくらいのビジュアルで演じたらいいのかなぁ、と思ったりする。鼻がブラックホールの如く顔面に陥没しているシラノ、である。実際に見たいかどうかはまあ別である。

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『若き日の詩人たちの肖像』
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