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20240724『若き日』セルフライナーノーツ⑭

Photo by Mikio Kitahara

ふと思い立って先の公演のセルフライナーノーツを書いてみようと思った。私たちの『若き日の詩人たちの肖像』は上演時間60分の作品で、オープニングとエンディングを合わせて20のシーンからなる。リハーサルではひとつひとつのテクストを俳優たち自身で選定し、シーンを立ち上げていった。私たちの創作はどことなく音楽のアルバムを作るときのそれに似ているような気がして、せっかくなのでセルフライナーノーツとして、覚えている限りでその過程を書き留めておければと思った。


『若き日』セットリスト

「15 室生犀星のシンガポール」は河野竜平がシーンの元となるイメージをもってきて、それをもとに小説の中から特にこの詩を選んでやってみよう、ということからつくり始めたシーンだった。

▼平田オリザ氏の『日本文学盛衰史』の最後の方で、北原白秋や高村光太郎が坂口安吾に「あなたたちは、もう少し長生きをして、戦争を賛美する、とても醜い詩を書きます。」といってなじられていたシーンがあったなぁ、ということをなんとなく考えながら、稽古場でこのシーンをつくっていた。

▼たとえば自分の世代でも、10代のころ好きだったアーティストがものすごく国粋主義的な、愛国主義的な曲を歌ったりしてぎょっとする、ということがあったりした。当時の若者たちにとって尊敬すべき室生さんがああした戦争賛美の詩を書いたことが、どういう意味をもったのだろうかということをずっと考えていた。

▼『若き日の詩人たちの肖像』はもちろん詩人たちの側から書かれているから、どうしたってその時代において少数派の人たちの感覚がそこには主に描かれているけれども、当時の普通の人たちはそうして戦果が上がって我が国が快進撃をしているというニュースに普通に熱狂していたのだ。そうして詩人たちも、普通の人たちも、共に日本人であることからは逃れられない。

▼戦地で戦っているのも日本人だし、それを詩に詠むのも日本人だし、その詩を読んで喜ぶのも、傷つくのもまた日本人ということのアイロニーを思う。別にどちらが偉いとかいう話ではなくて、同じ国の国民であっても同じ気持ちでいられないということが現に起こる。その孤独の中で詩人たちは自分のなすべきことを一人ひとり静かに考えていたのかもしれない。

▼シーンの中で使っていた小道具は、「こんなのがあるよ」と鈴木大倫がAmazonでみつけてきたものだった。実際にシンガポール戦で落下傘部隊が投入されたかはひとまずおくとして、戸山公園のあの空間の上空のスペースを埋められるアイテムとして活躍してくれた。戦争に興じる人をなじるのはかんたんだけれども、肉親や我が子を戦地に送り出して、彼らに死んでほしいと願う親や家族はいない。それでもやはり、あの室生犀星の詩を読んでみると、言いようもなく苦いものを感じるのだった。

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平泳ぎ本店/Hiraoyogi Co. 第8回公演
戸山公園野外演劇祭参加作品
『若き日の詩人たちの肖像』
2024年 5月17日(金)ー19日(日)
各日18時30分開演(17時45分受付開始・開場)
※雨天決行
於:戸山公園(箱根山地区)陸軍戸山学校軍楽隊 野外演奏場跡
https://g.co/kgs/Ksc4VNJ
【チケット】
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