デザイン組織をデザインする
2020年1月にSPEEDAのCDOに就任しました。3ヶ月後の4月からは、SPEEDA、FORCAS、INITIALといったB2B SaaSプロダクトを担当していたデザイナーがひとつの組織に集まり、B2B SaaS事業のCDOになりました。(ちなみに、速攻で育休取得したので、本当にカオスのスタートでした汗)
あれから、約1年。多くの失敗を重ね、私たちのデザイン組織が成長していく中で、学び得た実践知をシェアします。新年度に、新しい組織を立ち上げ成長させていく方々のヒントになれば幸いです。
結論:組織デザインするための5つの要素
1:組織が目指す理想の姿「ビジョン」
2:ビジョンによる「コンピテンシーマップ」
3:コンピテンシーマップによる「目標設定」
4:目標設定による「フィードバックサイクル」
5:フィードバックサイクルによる「自己認識力」
組織の責任者は、一人ひとりのメンバーと向き合いながら、その組織の目指す理想の姿(ビジョン)を描く。次に、ビジョンに向かうために必要な力を因数分解し、コンピテンシーマップをつくる。コンピテンシーマップは、理想の姿に向かうための地図である。
メンバーは、コンピテンシーマップを見ながら、目標を設定する。そして、その目標設定に対してフィードバックを受け、自己認識力を高める。自己認識と他己認識が揃うことで、心理的安全性が高まり、持ち味を活かした「ありのままの姿」で働きながら、理想の姿に向かう。
それでは、ひとつずつ具体的に解説していきましょう!
1:ビジョン
DESIGN FORWARD
デザインー。それは、
対象の本質を見い出し、人々をはっとさせること。
美しい体験を創り出し、人々をとりこにすること。
斬新な未来を描き出し、人々をわきたたせること。
私たち Uzabase SaaS Design Divisionは、
クラフトが持つ大きな力を信じながら
SaaSビジネスの可能性を共創し続ける。
世界を前に進めるために。
まずはじめに、私たちの組織が目指したい、理想の姿を明文化しました。ワークショップを通して、一人ひとりの価値観を紡ぎながら、最終的に「DESIGN FORWARD」という言葉に集約しました。
デザイナーとしてプロジェクトを牽引したり、デザインの成果物自体が、立ち止まった人たちを再び歩き出させるような。モノ・コト・ヒトを前に進め、つないでいく。そんな意味と価値をこの言葉に込めました。
もともと、私自身は、個別のチームに対するビジョン(またはミッション)を創ることに懐疑的な立場でした。なぜなら、既にUzabaseには「経済情報で、世界を変える」というミッションがあったからです。会社のミッションさえあれば、個別のチームや組織にビジョンは不要なのでは?混乱するだけなのでは?と考えていました。
ところが、実際にビジョンをつくっていく中で、意見が変わりました。デザイン組織のビジョン創出を通して、組織は混乱するどころか、「経済情報で、世界を変える」というUzabaseのミッションに対して、デザイン組織として、どうするべきか?そこが明確になりました。
つまり、一人ひとりのデザイナーが「DESIGN FORWARD」することで、プロジェクトを前に進める。前に進んだプロジェクトが多ければ多いほど、経済情報で、世界を変えることに近づいていく。自分たちが理想の組織に近づくことは、会社のミッションにも貢献する。会社のミッションと組織のビジョンを繋げて考えることは、矛盾しないことを学びました。
2:コンピテンシーマップ
コンピテンシーマップとは、理想の組織(ビジョン)に向かうために必要な地図です。そこには、理想の組織に必要な「スキル」や「デザインの力」が描かれています。一方、そこに向かうための現在地も知ることも必要です。大切なことは、現在地と理想の間には、どのような段階があり、どういった道筋があるかを示すこと。そして、一人ひとりのメンバーが解釈できる余地を残し、思考を停止させないことです。
例えば、私たちのデザイン組織のコンピテンシーマップでは、以下のような観点と段階を示しています。また、タイトル(職務レベル)が上がるにつれて、求めるスキルも広く深くなるように工夫しています。
下記では、RPGに代表される「回復の力(魔法)」を例にあげています。最初は、誰か1人のHPを回復できるところからスタートし、上級職になるにつれて、複数人のHPを全回復できるようになる。デザイン組織のメンバー全員がプロフェッショナルに到達したとき、私たちの組織は「DESIGN FORWARD」した理想の組織になったと考えています。
ジュニア:「1人」のHPを 「まあまあ」回復する
ミドル:「1人」のHPを 「すべて」回復する
シニア:「複数人」のHPを 「まあまあ」回復する
プロ:「複数人」のHPを 「すべて」回復する
Value
・行動指針の力(UBメンバーであり続ける)
Execution
・組織マネジメントの力(組織やチームをつくる)
・プロジェクトマネジメントの力(タスク・PJを前に進める)
・オペレーションの力(生産性・効率性を高める)
・成果貢献の力(コミットメントを高める)
Edge
・デザインディレクションの力(クリエイターへ指示する)
・デザインコミュニケーションの力(非デザイナーへ伝える)
・アートワークの力(造形表現を高める)
・ブランドをつくる力(らしさをつくり、展開する)
・マーケティング視点の力(デザインの効果を高める)
・編集の力(情報を組み立て、魅力を高める)
・図解の力(ストーリーで分かりやすく伝える)
・Webデザインの力(UIとグラフィックを融合する)
・スタイリングの力(プロダクトの造形をつくる)
・情報設計の力(プロダクトの骨格をつくる)
・インタラクションデザインの力(心地よい関わり合い)
・デザインシステムの力(UIを秩序立てる)
・グロースの力(プロダクトを急成長させる)
・フロントエンドの力(プロダクトを実装する)
・デザインリサーチの力(良いユーザー体験を考える)
・デザイン思考を応用する力(デザインの力で課題解決する)
3:目標設定
目標設定(または目的設定)の重要性は様々なビジネス書でも言及されています。まず、目標設定が重要な理由を自分の体験から、ふり返えりたいと思います。
もともと、私は目標設定が嫌いでした。時間もかかる。めんどくさい。そして、目標設定したからといって、それ以外の仕事も発生する。だとしたら、その時間は、手を動かしていた方が有意義ではないか。つい最近まで、そんな風に考えていました。
しかし、マネジメントする立場になり、メンバーがどんな目的で働いているのか、そのための具体的な目標は何かを知らないと適切なフィードバックができないことに気づきました。目標に対して、フィードバックをしない場合「あなたの改善すべき100のこと」といった相手を詰める場になりがちです。そこでは、抽象度と具象度が入り混じった、本人が釈然としない内容まで表出することでしょう。そんなフィードバックでは、本人の行動変容を望めません。
また、私たちが組織で働く理由を考えていくと、そこには個人では達成できない仕事をしたいから、他者と働くを選択していることに気づきます。個人ではなく、組織で達成したいことがある。そこには、組織で働くための目的があります。
もし、目標設定をしないまま仕事を続けていくと、どうなるのでしょうか?目標を積み重ねた先に「目的」があります。目標設定をしないことは「何のために、集まって働いているか分からなくなる」ことにつながります。つまり、組織崩壊の可能性が高まるのです。
だからこそ、私たちのデザイン組織では、会社のミッション達成のための理想の組織像(ビジョン)を創出しました。そして、そこに至るためのコンピテンシーマップを描き、現在地を確認した上で、次のステージを明確化するための目標設定をおこないます。
私は、目標設定する際、「コトに向かう目標」と「ヒトに向かう目標」を2つの目標をセットアップすることをオススメします。
コト目標
定量的な「コト」に向いた目標。外的要因で、コントロール「不能」になる可能性がある。
ex. ○月○日にリニューアルデザインのリリース
ヒト目標
定性的な「ヒト」に向いた目標。本人次第で、コントロール「可能」。
ex. デザインの意図を類推表現(アナロジー)で説明できる状態になる
プロジェクトのリリースなどはコト目標。そのプロジェクトを通して学び、成長したい内容をヒト目標として設定します。そして、ヒト目標に対して、コンピテンシーマップの観点を利用します。ヒト目標は、外的要因の影響を受けづらく、本人次第でコントロールできるため(究極、プロジェクトが潰れても、別の代替手段でスキルを伸ばせるため)です。
4:フィードバックサイクル
私たちのデザイン組織では、フィードバックサイクルが四半期ごと(3ヶ月に1回)あります。そして、フィードバック前に、必ずポートフォリオを制作します。この3ヶ月の間のデザイン成果物(アウトプット)は何で、どのコンピテンシーマップの観点を学び、何が成長したのか。さらに、デザイン組織のビジョンに対する「My DESIGN FORWARD」も発表します。
「My DESIGN FORWARD」を通して、一人ひとりがどんな関わり合いでモノ・コト・ヒトを前に進めたのか。私はこの「My DESIGN FORWARD」の発表が、毎回とても楽しみです。
またこれは、組織のビジョンを神棚に上げたままにしない施策でもあります。3ヶ月に1度、自分がDESIGN FORWARDに対してふり返りながら、ビジョンを自分事化する大切な時間です。
このフィードバックサイクルに関する詳細は、上記のスライド『フェアネスを「感じる」デザイナー評価の描き方』にまとめていますので、興味がある方はご参照ください。
5:自己認識力
組織コンサルティング会社のコーン・フェリー社の調査結果(2013年)では、以下の結果が示されています。
Public companies with a higher rate of return (ROR) also employ professionals who exhibit higher levels of self-awareness.
意訳:RORの高い上場企業では、自己認識力の高いプロフェッショナルを採用している。
自己認識力が高い人はフィードバックを多く受け取り、成長スピードが早い。結果的に組織の生産性が高いと読み取れます。
また、ゼネラル・エレクトリック(GE)を約20年率いて「20世紀最高の経営者」と称されたジャック・ウェルチ氏は、その称される理由に「自己認識力」の高さを述べています。
このように「自己認識力」の高さは、組織デザインの重要結果指標のひとつです。
自己認識と他己認識を重ね合わせ、自己認識力を高める。
他者の意見を聞き、自分が何者であるかを知る。このプロセスを通して「ありのままの姿」を知りながら、成長する。
つまり、自己認識と他己認識が一致している状態は、自分の「ありのままの姿」を周りのメンバーに見せていることを意味します。それは、心理的安全性がある状態とも言えるでしょう。心理的安全性が高まっているため、他責思考にならず、自責で考えることが当たり前となります。(自責で考えても責められる心配がないため)そして、問題や課題に対して、被害者として捉えて思考停止するのではなく、当事者として捉えて行動していく組織につながります。
おわりに
会社のミッションと組織のビジョンをつなげる。その組織に集った理由を明確化しながら、理想の姿に向けた地図をコンピテンシーマップで描く。目標設定とフィードバックサイクルを繰り返し、自己認識力を高める。
この1年、私が学んだ「デザイン組織をデザインする」ための重要な5つの変数は以下の通りでした。
1:組織が目指す理想の姿「ビジョン」
2:ビジョンによる「コンピテンシーマップ」
3:コンピテンシーマップによる「目標設定」
4:目標設定による「フィードバックサイクル」
5:フィードバックサイクルによる「自己認識力」
2020年1月にCDOとなり、多くの失敗をしました。その根本的な原因は、自己認識力の低さでした。なれもしない(ありのままの姿ではない)CDOの姿を求め、その型に自分をはめ込み、自分で自分に呪いをかけました。
そこから、コーチングと出会い、私のコーチから多くの問いを。現場のメンバーから多くのフィードバックをもらいながら、自己認識力を高めました。そして、みんなで一緒に上記の5つのことに学びながら、少しづつカタチづくっていきました。
2020年の12月末。ある女性シニアデザイナーがふり返りの場で
「私たちは、やっとスタートラインに立ったのかもしれない」
と発言しました。本当に「そう!」と思ったことを覚えています。まだ、私たちは、スタートラインにすら立っていなかった。その手前で準備運動していた状態だったんだと。だからこそ、もっともっと組織として成長していかねばなりません。そこで、
私たちのデザイン組織の名前とロゴをつくりました。正式名称は
Uzabase SaaS Design Division "DESIGN BASE"
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