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【2】地域ボードゲームの魅力
いたばしの地域ボードゲーム会・松本です。今回は地域ボードゲームならではの魅力を書いてみます。早く「作り方」の話に行けよって感じですが、先に書かないと、後から載せづらい気がするので。すみません。
今回は、地域ボードゲームはイベント実施と相性が良いという前回の話をふまえ、交流イベント、学習イベントの2パターンで見た「地域ボードゲーム」の特徴(得意と苦手)について自分の気づきをまとめます。結論としては、地域ボードゲーム作ろうよってことです。はい。
地域交流の手段としての「強み」
交流や対話を楽しむイベントでは、アイスブレイク(初対面同士の緊張をほぐす工夫)が大切ですが、地域ボードゲームはアイスブレイクそのもの。ゲームによって目的が与えられ、会話が自然と成り立ちつつ、地域ネタによる脱線も起こります。
また、地元人でも地域への関心や知識量はかなり違いますが、地域ネタが笑いを誘う場面もあれば、ゲーム中のプレイングが笑いになる場面もあるので、わりとフラットな感じで遊んで話せる空気になってくれます。
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こうした地域ボードゲームの利点をいかす意味では、きっと僕らのようにゲーム会の開催がメインじゃなくてもいいでしょう。講演会やワークショップなどと組み合わせ、追加的に「地域ボードゲーム」を使うのも有効な使い方だろうと感じています。
地域交流の手段としての「弱み」
強みの裏返しは弱みです。弱みの1つ目は、本来の強みであった「対面型の娯楽」であること。コロナ禍ではマイナスに置き換わってしまいました。そのうちに、オンラインで楽しめるタイプの地域ボードゲームも制作したいなと思っています。
2つ目はボードゲームを「めんどくさそう」と感じる人も少なくないこと。つまりイベントの訴求力が意外と低い。だってボードゲームは、ルールを理解して能動的にプレイしないと楽しめないし、知らない人と遊ぶことになりそうだし。ルールを理解し、見知らぬ人を気にかけ、想像するだけで脳ミソの負荷が高そうですよね。実際はゲームが始まってしまえば楽しさが勝って、全然大丈夫なんですけどね。もっと手前の段階で「ボードゲーム会に行こう」という決断が相当メンドーなのです。
これをどう工夫するかという点は、僕らも努力中で明確な答えを持っていません。が、ゲーム会と別の付加価値を明確にして訴求するのも1つの手段かもしれないと考えています。
次の写真は育児対話型カードゲーム「カジークジー」の体験会のようす。主夫ラボの高木さんに男性の育児参画に関する講義もしてもらいました。
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つまり「カジークジーを通じて男性の育児を考えるゲーム会」とか「イタバシ防衛隊を通じて区内の投票率を考える会」とか。そうした理由を立てることで、どういう人が集まる場なのか想像しやすくなり、参加者同士の交流にも期待感が高まるかもしれません。
ただ、お勉強っぽくしたくないなって場合は、地域ネタのボードゲーム会をただ地道に回数を重ねていくってのも大切かもしれませんね。いいアイデアがあれば僕も知りたいです。
学びの手段としての「強み」
次に学びの手段として考える場合、地域の意味合いは薄れて「ボードゲーム」という手段の話がメインになります。でも「地域ボードゲーム」の話題もちょっとあります。
強みの第一は、やはり「知識ではなく体験で学べる」ことではないでしょうか。先に出た育児対話型カードゲーム『カジークジー』では、次々と発生する家事・育児のトラブルを前に、ペア(おもに夫婦)が互いに話し合わなければ何も解決できません。「夫婦の話し合いが大切だ」と言葉で説くこと以上に、ゲーム上の設定であっても2人でトラブルに向き合い、実際に話し合ってのりこえていく体験はとても有意義です。
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またゲームの中で登場するさまざまな固有名詞や演出項目も、ゲームを攻略しようとする過程で自然と記憶に入っていきます。カードやコマを動かす身体性があり、突きつけられた選択肢を自分で選びだし、ゲームの展開に合わせた喜びや焦りといった感情変化も加わります。その体験はきっと、ただの座学よりも記憶にも定着しやすいと言えるでしょう。
また、学習内容が地域の防災や歴史、生活に結びついているほど、参加者の主体性と発言は活発になります。イベントの会場には、やはり会場付近の地元民が多めに集まりますから、地域ボードゲームによる学習効果はさらに高まります。
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こうした遊ぶだけじゃない「学べます」「役立ちます」って部分があることでメディアにも扱ってもらいやすくなるようです。宣伝は大切です。本来の目的を見失わない範囲で、宣伝にも最大の効果が出るといいですよね。
学びの手段としての「弱み」
ただ、ゲームで学習しよう!という試みには欠点もあります。まず文字通り「遊び」がなければゲームは成立しないので、テキスト量で情報を捉えた場合は、同じ時間の座学よりも情報量で劣りそうです。
もう一つ、物事を体系立てて学ばせるのはなかなか困難です。ゲームとしてプレイヤーにさまざまな選択肢と自由を与える以上、プレイヤーが情報にふれる順番も、その重み付けなども制御しきれない場合があります。
学習型のボードゲームを開発するときは、まず「何を体験(学習)してもらうのか」という中心的なものをしっかりと定め、それ以外の学習要素は欲ばらずに整理していくことが大切だと思います。
制作中ですが「アラカワスイモンバン」は、「洪水を防ぐためには河川の水門操作がとても重要だ」という事実の体験を中心にデザインし、それ以外のリアルさは重視していません(水位によって川が逆流、みたいな驚きの要素も入れていますが、サブ的です)。
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ゆがみも多少は生まれます。現実では、ゲームのように水門開閉の判断を個人に委ねられることはなく、全ての水門が治水のシステムとして計算で決められた水位に達したかどうか、数値判断で水門開閉を決断します。そのとき、河川事務所の人は何をするのかというと、水門の影響範囲に立ち入っている人はいないか、各地の水位計やセンサーに異常はないかといった、地道な仕事をこなしてくれているそうです(河川事務所の方に聞きました)。
こういったゲームに直接反映しない実際の情報などは、カードに演出の文章として入れたり、目立つ形でガイドブックに入れたり、あるいは講座をゲーム会に組み合わせたりと、さまざまな手段でゲームを盛り立てる装飾として組み立てるのが有用だろうと思います。
ボードゲーム制作という立場での魅力
最後に、ボードゲームを作るという立場から考えたときの、地域ボードゲームの魅力を追加しておきます。いろいろ感じることはありますが、今のところ自分がイチオシしたいのは「世界観がただちに共有され、ふくらませることができる」という点です。
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たとえば、「いたばし防衛隊」というゲームでは、板橋区の地図上を宇宙人があばれまわり、まちを破壊していく設定です。プレイヤーたちが防衛に失敗すると、地図上においた建物のトークン(3Dプリンターで作った小さい模型)が失われ、最後は、燃え盛る炎のトークンが置かれて、その地域が「壊滅」します。
単純にゲームの仕組みで見ると、15ラウンドの耐久戦で、建物の回復手段はないため、プレイヤーたちにはずっと負荷が高まっていくストレスフルなゲーム構造です。
ところが「やばい高島平が壊滅しそう!」と言いながらも、心の片隅には「早く壊滅って言いたい」的な遊び心も生じています。
誰かが「常盤台はいっそ壊滅させた方が防衛ラインとりやすそう」みたいなことを言うと「ちょッ、待って!」と常盤台民が突っ込んだり。
ゲームのルールの外側にある、地域という共有体験の上にゲームを作っているので、現実世界の知識や感覚がゲーム上に投影されて、大いに盛り上がります。これは、通常のボードゲームで世界観を演出している「フレーバーテキスト」みたいな要素が、初めから参加者全員に、しかも少しずつ違った視点ですりこまれているような状況です。それを、どう生かせるか、研究しがいのある、大きな魅力だと思っています。
結論としては、地域ボードゲームを作ろう!
今回の考察から得られる結論はこうです。
地域ボードゲームを遊んでもらうには、ボードゲームとは別の付加価値をアピールするのがけっこう有効です。「当日は珍しい紅茶を用意しています!」とかでも良いと思います。地域の人で楽しみたいという思いがある以上、普段ボードゲームをやらない人たちが集まって盛り上がるのはウェルカムだし、むしろ理想的といえます。
そして、そうしたフックを設けるため、ゲーム自体も何かテーマを持たせて、学習要素を売りにできるよう組み立てるのは、きっと良いアイデアです。この場合は、どんなゲーム体験をしてほしいのか、狙いをきっちりと作りましょう。
地域ネタでゲームを作ろうとすると、まっさきに「カルタ」「スゴロク」が発案されます。両者は、誰もがルールを知っているという特大アドバンテージがありますが、欠点もあります。
カルタはプレイの中心が独り作業なので相互作用が生まれづらく、ゲーム中は会話する余裕もありません。スゴロクは運任せなので、子どもが大人に勝てるという良さ、会話する余裕も十分ありますが、頭を使ったという満足感を得づらいもの。いっそ両方を作るなら相補的で悪くありませんが、片方なら欠点も理解して、イベント全体をうまく設計しましょう。
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結局、僕らとしては、オリジナルの地域ボードゲーム開発をすすめます。オリジナルだからこそ、しっかりと狙ったテーマを中心にできるし「ここでしか遊べない」という独自性を訴求することもできます。
もちろん、オリジナルのゲームを作ろうといっても、何をどうしたらいいかわからないというのが普通だと思います。ですので、このシリーズ記事に今後もご期待いただきたいと思います。
次もまた、よろしくお願いします。
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