レシピに縛られないブリコラージュな料理
地球温暖化は今、世界が直面する大きな問題のひとつ。温暖化が進むと自然災害の増加や気候変動、生態系に変化が起こり、人の生活にも深刻な影響を与えるリスクが高まる。この温暖化を引き起こす原因のひとつが、温室効果ガスの増加だ。その温室効果ガスには、まだ食べられるのに捨てられる「食品ロス」が大きく関わっている。
食品ロスの中でも、とくに家での食品ロスについて、フランスの社会人類学者であるレヴィ=ストロースが提唱した「ブリコラージュ」という概念と合わせて考えてみる。
レヴィ=ストロースによると、人類は昔から、自然の中でさまざまな知恵や工夫を使いながら文化をつくってきた。レヴィ=ストロースは、この工夫のことを「ブリコラージュ」と呼んだ。ブリコラージュというのは、身近にある素材を即興で組み合わせ、工夫しながら目的を達成するやり方のこと、とでも言えばよいか。これは、いわゆる欧米的な「計画に沿って、理論的につくり上げる方法」とちがって、身近にあるものを活かしながら柔軟に対応する方法である。
現代の科学的思考でいうと、「概念」という抽象的なモデルをつくり、そこから具体的なものを省いて、できるだけシンプルにしようとする。これに対して「ブリコラージュ」は「記号」として具体的なものを活かし、言葉や比喩なども使って、柔軟で創造的な解決を見つけていく、そんなふうにレヴィ=ストロースは考えた。この「あり合わせの工夫」が、文化や生活を豊かにしてきたと言える。
「ブリコラージュ」の考え方は、食品ロスを減らす工夫にも役立つかもしれないと思って、いまじぶんが取り組んでいる仕事やプロジェクトに応用しようとしている。これについては、またどこかで書きたいと思う。
日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品を「食品ロス」と定義している。とくに家庭から出る食品ロスは、全体の半分近くを占めていて、料理のつくりすぎや食べ残し、使わずに廃棄する食材が大きな原因となっている。
家ではレシピを見て料理をつくることがある。レシピに載っている食材を揃えて、料理を完成させるための手順に従うわけだけど、これが食品ロスを生む一因にもなっているんじゃないか。つまり、「レシピに書いてある食材を分量通りに揃えないと、その通りに完成しない」という、いわゆるブレのない料理の仕方が、いちいち食材を家の中に招き入れている。
ここで、レシピ通りにつくる、という思考から離れてみる。あり合わせの食材を使って料理する「ブリコラージュ」を取り入れることで、家で生まれる食品ロスを減らすことができそうだ。実際、街の飲食店の現場でも、料理人がまかない料理として店にある余った食材を工夫して使っている。あれこそ、まさに「ブリコラージュ」の手法だ。
家電やミールキットなどの便利なサービスが増えているけど、こうした「完全な設計図」に沿う方法ではなくて、手元にある食材を使って即興で料理をたのしむ「ブリコラージュ」のやり方には、食品ロスを減らすだけでなく、それよりももっと大切な、現代人が忘れがちな食材への愛着や豊かさを見出す可能性もある。食材を大切に使う姿勢や技術も、ブリコラージュな工夫の中で身についていくのではないか。
参考文献
クロード・レヴィ=ストロース(1976)『野生の思考』みすず書房
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