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「大企業や富裕層が大統領を操るようになり、自民党もその真似をしようしている」【エィミー・ツジモトが読むアメリカ①】

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今年10月には米国大統領選挙が実施され、4年ぶりに新大統領が決まる。目下の有力候補は民主党の現職ジョー・バイデンと共和党のドナルド・トランプ元大統領だ。今回から毎週1回程度、日系米国人ジャーナリストのエィミー・ツジモトさんに、米国で何が起きているのかを聞いていく予定だ。


平井 6月28日にジョー・バイデンとドナルド・トランプの初めてのテレビ討論会開かれ、日本でも大きく報じられました。討論会では、呂律が回らないバイデン、フェイクを撒き散らすトランプの姿が強調して伝えられました。以前から高齢のバイデンには次期大統領候補としての資格に疑問符がついていましたが、よりそれが強まったわけです。また、欧米の海外メディアでは、ポスト・バイデンの民主党有力候補について分析も出始めています。エィミーさんは、今回の討論会をどのように見ましたか。

◇核のボタンを持って広島に入ったバイデン

エィミー バイデンが蹴つまずきそうになったとか、ディベートの最中に動きが止まったとか、そういうところにニュースはフォーカスしがちなのよね。一方で、バイデンだけではなくトランプだって明らかにもうかなりの年齢に入っていることは違いはないわけです。もはや、2人の様子はアメリカの政治にとってまったく関係ありません。アメリカの政策そのものは誰が決定しているのか? それが最も重要なポイントになるのよ。日本でも多くの人は大統領に決定権があると思ってるわけでしょ。

平井 そうですね。違いますか。

エィミー それはもう明らかに間違いよ。アメリカの政策と大統領としての思いは全く別のところにありますから。バイデンが広島の原爆被害者の慰霊碑に行ったときに核のボタン(緊急時の核発射ボタンの入った大統領専用スーツケース、通称「核のフットボール」)を持ち込んで、女性米兵に持たせて平然と花を手向けいたわけでしょ。平然とね。原爆を落とした国はアメリカですよ。そのアメリカが核のボタンを広島に持ち込んでいるということは、人道的にも道義的にも道理としても許されるはずがないのよ。岸田首相はもっと怒らなければいけない話です。でもそれがアメリカの政策なのよ。つまり、アメリカの政策とバイデンが大統領として持っている思いは全く別のところにあるということです。

平井 大統領であっても、アメリカの政策には抗えないという一例ということでしょうかね。

エィミー もう一つ言いましょう。例えば、トランプ。トランプは大統領時代に何をしたか。彼は彼なりに考えてのことだろうけども、2018年に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の金正恩(労働党委員長)とシンガポールで会談しました。喧嘩しながらも、あるときは金委員長を「ロケットマン」などと呼んでお互いに笑いあっていましたね。トランプはおそらく大統領として何か足跡を残そうとしたんでしょうね。それでシンガポールまで出かけて行って米国と”平和協定”を結ぼうじゃないかと思わせて金正恩と仲良く写真に写ったわけです。
 しかし、アメリカで許されるのはそこまで。アメリカの首脳陣はとんでもないと大反対をした。トランプは2019年に再び、金正恩に会いにベトナムまで行ったけど今度はベトナムで紛糾しちゃって、なんの合意も得られなかったわけでしょ。それはなにを意味するかというとトランプであれバイデンであれ彼らの背後には、大統領でも自由に動けない強い勢力の存在があるということです。そこが大きな問題なのね

平井 それはどのような存在なのかということになります。


エィミー・ツジモトさん(撮影/2024年6月、都内にて)。『満州分村移民と被差別部落』『隠されたトモダチ作戦』(いずれも、えにし書房)など著作多数。

◇シチズンズ・ユナイテッド裁判


エィミー 極端に言えば、バイデンもトランプも操り人形でしかないっていうこと。だからあのディベートを見てメディアはワイワイ騒いでいるけれど、彼らが呆けていようが、嘘をつこうが、背後にいる連中はなんにも動揺などしていないということです。もはやあのような人間たちでもアメリカの大統領候補になってしまうというのが今のアメリカの大きな問題なのよ。
 アメリカがこうなってしまった転換点は2010年1月の米国最高裁判所の判決だと言えます。シチズンズ・ユナイテッド、日本語では「市民の連合」という意味の原告団がFEC(連邦選挙管理委員会)と争った裁判で勝ったことが契機です。シチズンズ・ユナイテッドは大統領選や予備選挙など選挙における企業献金の制限は合衆国修正第一条の表現の自由に反すると長年訴え続けていたのよ。企業にもアメリカ国民と同じように表現の自由が認められるべきだという。そうしていよいよ最高裁まで裁判が行き、最高裁判事の9名のうち5名がこの訴えを認めることで、スーパーPAC(特別政治活動委員会)と呼ばれる政治資金管理団体への献金や選挙献金の制限がなくなってしまったの。

平井 日本のIRと言いますかカジノもトランプとサンズのシェルドン・アデルソンの関係から出てきたものですしね。それに今や大統領選や予備選など米国では選挙の広告費用は2兆円などとも言われていますからね。2010年以降にそうなったということですね。

エィミー そう。その結果アメリカはどうなったのでしょうか? 政治家は国民の一人一人の献金に頼るのは大事なのだけれども、それ以上に大手企業や富裕層に頼る方が早いとなってしまいました。政党や政治家への献金の抜け道としてスーパーPACも使えるようになった。政治家に流れているお金がいくらなのかわからなくなるダークマネーになってしまいました。

平井  日本でも自民党は政治資金の透明性に消極的ですね。

エィミー ご存知のようにアメリカの上院議員の任期は6年、下院はわずか2年です。そうすると下院議員は2年間で大口献金を集めて選挙で勝ちたい、そのためにはやっぱり大企業や富裕層からの献金が欲しい。結末はどういうことかというと、最終的に彼らは財力のある大企業らの回し者になってしまったということね。

平井 たいていの政治家はなびきそうですね。

エィミー これが本当のアメリカの現状なの。それでは、その大手企業とはどのような存在なのか? 

平井 当然、気になります。

◇大統領の背後にいる存在

エィミー おわかりのようにファイザーのような大手製薬企業や防衛産業が、代表的な存在です。だから大統領がミサイルの廃棄をしたいといっても、結局、背後にいる防衛産業によって新しいミサイル開発ができるようになってしまうわけです。
 トランプとプーチン大統領の2回目の米ロ首脳会談(2018年7月)でも、結局、新戦略兵器削減条約の延長もせずに、トランプは偉そうな顔して帰国したじゃないですか。米ロでの武器削減はなにも実現しなかったわけです。ロシアに対してトランプがそれほど強気に出られる背後には、強い勢力があったから。
 ネオコン(新保守主義)などとみなさん言うけれど、そのような連中も含めて牛耳るだけの財力を持つ大企業がトランプの後ろ盾にいたからです。ミサイル削減を止めて喜ぶの防衛産業でしょう。今のウクライナ戦争だって、長引けば長引くほどアメリカの大企業丸儲けしている。ガザも同じことになっているわけよ。
 だから、バイデンもトランプも操り人形と同じ。仮に大統領に良心があってもそんなものは、どうしようもならないくらいレベルにまでアメリカの帝国主義は来てしまっていいうこと。

平井 大統領が民主党候補者になろうが、共和党候補者になろうが、企業や富裕層にとっては変わらないと?

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