【エィミー・ツジモトが読むアメリカ⑥】バイデン撤退論 民主党議員の本音
大統領選をめぐる動向は日々、目まぐるしく動いている。7月22日(日本時間)、ジョー・バイデンは大統領選からの撤退をSNSで発表した。「誰が新しい大統領になるのか」に目先の議論が行きがちなのは仕方ないことだが、一連の動きの中で射程距離の長い重要な発言や出来事をピックアップして深堀りしていきたい。下記は7月19日のインタビューである。
平井 政治家の襲撃殺害事件は当然ながら、憶測を呼びます。まず、お聞きしたいのは、7月11日にペンシルベニア州で起きたトランプ狙撃事件の容疑者である狙撃犯トーマス・クルックス(Thomas Crooks、20歳)についてです。いま、米国ではどのような議論になっていますか。日本では議論に時差もあるので。
◇トランプ射撃犯の真相
エィミー まず、トランプは今回の事件が起きたことによって大統領に選ばれるでしょう。あの一発ですべてが変わりました。
狙撃犯とされている20歳の彼は射撃クラブに入っていたんです。ただ、銃が好きなだけで暴力的な衝動があるわけではなかったそうです。学業は優秀でしたが、(4年制)大学に行かず、日本でいう介護用ホームのようなところで働いていました。<明日は大事な用事があるので休む>と職場にも連絡もしていました。そのような人が銃撃をするのでしょうか。
有力大統領候補を狙撃するという命がけの行動をしたのに、声明文も出ていません。 YouTubeで20秒ほどのメッセージを寄せただけでした。「共和党が嫌い」「トランプを好きではない」「 自分ではない」という3つの言葉です。彼の遺した言葉が何を意味するかはわかっておらず、さまざまな分析が出ているという状態です。
平井 米国では「#やらせ」(#staged、演出されたという意味)という言葉もSNSで飛び交っており、まだまだいろいろな憶測を呼んでいるようです。
エィミー 狙撃当時、あの場所には多くの関係者がいたんです。警護がいて、選挙キャンペーンの関係者が休んでいる建物や場所もあった。その中で彼は屋根の上に登っていました。その姿をスマホで撮影している人もいました。ある警察官は、どうしましょうか、狙撃すべきですかと現場の上司の許可を得ようともしていました。しかし上司からはダメだと言われたそうです。そういう会話記録も明らかになっています。
結局彼を撃つわけですが、なぜ上司はそれを止めなかったのか疑問視されています。まだまだ、真相はわかりません。直近の情報では、射撃の音を分析した結果、狙撃犯の位置以外に、別の二カ所から銃弾が放たれています。一つはトランプへ、もうひとつは「不正確」だが狙撃犯に向けてではないかと分析されています。
平井 話はちょっと変わりますが、彼もペンシルベニアの労働者階級だったのでしょうが、トランプと違って民主党は労働者の受け皿にはなっていないのでしょうか。
エィミー 米国内では、明日の主食となるミルクもパンもソーセージも買えない、と食べることに困っているという人がいます。そうすると、か食べ物も値上がりしたではないか、民主党政権は国内を見ずになぜウクライナばかりでやっているのいう批判が出てくるのは当然です。私もそう思います。
そのような場面で、トランプは自分ならやると思わせます。実際にトランプが実行するどうかはわかりませんが、自分が大統領になればウクライナとロシアの戦争は止めると口では言うのです。
◇クラーランス・トマス騒動
平井 トランプ大統領が確実視されるなか、もはやそんな政策論争の段階でもないでしょうが、なぜバイデンはこれほど批判も出ているのに撤退しないのでしょうか。
エィミー 私からすれば、若い頃のジョー・バイデンはとても好感度の高い政治家でした。そのことから説明をしたほうがわかりやすいかと思います。
平井 多くの日本人にとっては、せいぜいオバマ大統領のときに副大統領だったという程度の認識ですからね。
エィミー 今から30年前にクラーランス・トーマス(Clarence Thomas)騒動というのがありました。そのときのバイデンの振る舞いは立派だったのです。
アメリカでは最高裁判事は一度就任すれば永久です。昨年、亡くなったギンズバーグもそうですね。そして、クラーランス・トーマスという黒人がその最高裁判事に指名されました。トーマスはロナルド・レーガン政権(共和党)で重用されてきた保守派の黒人です。公聴会でトーマスの任命の是非を議論し始めるとすぐに、彼のセクシュアル・ハラスメント疑惑が報じられ、全米中で大騒ぎになりました。このときに初めて職場におけるセクシュアル・ハラスメントという言葉が認知されたと思います。
平井 そうなんですね。
◇バイデン上院司法委員会委員長
エィミー 公聴会でも問題になり、アニタ・ヒルというオクラホマ大学教授の女性が公聴会で証言もして全米で報じられました。当時、私はCーSPANという国会中継チャンネルを毎日中継を見ていたのでよく覚えています。アニタも黒人でした。議論は次第にアニタが嘘をついているという方向になり、黒人同士が議会で叩かれているという構図になったのです。その時の上院司法委員会公聴会の委員長がバイデンでした。最終的に上院本会議では52対48で、トーマスの就任が承認されてしまったのです。その時、バイデンは、アニタに対して、「あなたの勇気に対して最大の敬意を表する。ひどい扱いを受けないように我々は守ります」と発言したのです。それでバイデンには非常に好印象を持ったことを覚えています。
平井 ケーブルテレビでしょうか。
エィミー アメリカってそういう番組を見る人が多いと思いますよ。私は当時、ペンシルバニア州の小さな村で子育てをしていたので、ずっと見ていましたし。全米が注目している事件でしたから。あのときのバイデンの振る舞いは素晴らしかったのですが、それが今となっては、と思ってしまうのです。 あの無様な姿を今後も見せつけ続けるのか。あのような姿は見るに耐えない人はいるのです。だから23人の民主党上院議員がバイデンに撤退を迫ったというのは、もうそんな姿を見せないでくれ。昔の輝いたままのバイデンをできるだけ、これ以上、傷つけないでほしい。そのような思いがあるはずです。
平井 なるほど。スターになった政治家が老害になって残念、というのは日本でもありますからね。
◇炭鉱の町スクラントンの野口英世
エィミー バイデンの出身地であるペンシルバニア州北東部のスクラントン(Scranton)という街は炭鉱や鉄鋼で栄えた、労働者階級が多いところで、ジョー・バイデンの両親も地元の労働者なんです。 ちょっと話はずれてしまうんだけど、ちょっとだけスクラントンの話をしておきたいと思います。野口英世っていますよね。
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連載 エィミ•ツジモトが読むアメリカ
日系米国人ジャーナリストが現代アメリカを政治を中心に読み解くシリーズです。 日米のバイリンガルであること、日米に拠点と情報源があり、両国…
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