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【読書】苦役列車

著者:西村賢太

人付き合いが上手でない男の子が、小学生の時に父が性犯罪で逮捕された事がきっかけで更に人との関わりが希薄になり、中学卒業後に家を離れて日雇いの仕事をして食い繋いでいくところから物語が始まります。

主人公の貫多は幼少からの育ち方が影響してか暴力的で卑屈であるため、日雇いの仕事をしてからも誰とも友好関係を築けぬまま月日が経ってしまいます。ところがある日、仕事場に向かうバスの席が隣になったことがきっかけで同年代の日下部と話をするようになっていきます。するとだんだんと仕事への熱量が増え、少しずつ社交的にもなっていくのですが、更に暫くすると日下部の些細な態度や言い回しなどに対して時折「自分のことを見下している」と卑屈に感じるようにもなってしまいます。

序盤では貫田の杜撰な生活や、本当は人恋しいのにも関わらず去勢を張ってしまうことなどの描写が多くあり、貫田の弱さ、幼さが目立つものとなっておりました。中盤に入って日下部が登場してからは徐々に貫田の成長を感じられるシーンもありつつ、時折本人の凶暴性や父親の影がちらつくこともあり、このまま貫田は成長してこの苦しい生活から抜け出せるのか?、それとも何かの拍子に人の道を踏み外してしまうのか?とドキドキしながら読み進める事ができました。

最後の結末は色々な感じ方ができるかと思いますが、私にとってはとても重く、考えさせられるものでした。
人間誰しもが強くはなれない。ならば弱きものはどうしたら良いのか。そんな叫びが聞こえてきそうな、悲しくて切ない気持ちになる一冊でした。

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