インイートイン/赤片亜美
体内におもちのようなさみしさが落ちていっては子宮で止まる
待っているわたしとおかずはらがへりのりたまでごはんだけを食べた
ピザポテトの袋開けたらわろてまうあんたの足のにおい食うやで
コンビニのスイーツ彼に頼んだら脳の貸借対照表へ
富士山の五合目の雪ともだちと食べてわたしだけが下痢をした
家族からシチューとおでん禁止令出た日にいつも冬がはじまる
君の舌吸いながら見る
(根元から抜けて窒息する)はくちゅうむ
丁寧に血抜きしてないタンは臭いきみのぶあつい舌に立てる歯
生きるため食べているけど食べるって噛んで飲み込むことだ死体を
新聞にくるんだナイフがあった部屋 母は赤い実ばかりを剥いた
おしっこのにおいにも似た二日目のおでんを食べて今日も一人だ
豚挽きのシチューが彼女のものとなりわたしの味は継がれていった
さようなら真っ赤に熟れたイチゴでも白い部分は残すあなたと
おみそしるごはんを最後の晩餐にしたいと言っていた友の自死
日曜の朝のかおりのする犬よパンケーキじゃなくホットケーキの
食べかけのおにぎり 道に落ちていた 誰のおかあさんがにぎったの
夜が明ける前に自転車走らせて犯人のように餌を撒くひと
ファミレスでソフトクリームの上だけのやつを頼んで舐めたら泣けた
トイレにはノートがあった お客さんみんなが『おいしかったです!』って
焼いだイガは、切るんでねくて、手で裂いだほうがうんめんだよ、ほれ、食べで
苦手って告白すると驚かれるシャインマスカットは嘘の味
好きな味全部違ったサーティワン互いの推しを試し舐めして
欄干や電線の上にいる鳥はいつもふたりでいるよね 落ちて
にんじんを千切りにするしりしりと言いたいがため言わせたいため
茶色くてパンッパンのあの太ももを齧る権利が彼女にはある
駅前のたこ焼き屋台割り箸で返せないのにずっと割り箸
やきいもや、だんごや、リヤカーひいてきたおじちゃんおばちゃんたちいつ死んだ
流された家にもいちど集まって死んだ家族もいっしょに鍋を
ばあちゃんが死んでカレーが甘くなくなった砂糖も減らなくなった
イートインコーナーがありますように行き先が天国でなくても
短歌研究新人賞2022応募作