実写の監督がアニメの監督をやる。
私は基本的に実写の監督です。実写というのはカメラで撮影する行程を経る映像のことです。俳優やタレントが出ている映像は全部「実写」の映像です。人が出てこなくても動物や風景だけの映像でも実写の映像です。ザックリ言うと、CGやアニメ以外の映像はほとんどが実写という事になります。私は基本的に実写の映像をベースに仕事をしている監督なのです。
でも、アニメーションを使って作る映像もたくさん作っています。私のように実写とアニメを両方とも仕事としてやっている監督は、日本にはそんな多くないと思います。
実写の監督としての私のスタンスは、他の実写の監督と同じです。基本的には演出という仕事です。極端に言えば、演出家は演出だけしていればよく、何も機材が使えなくても成り立つ仕事です。でも、監督の中にはカメラを使って撮影までやる人もいますし、編集までやる人もたくさんいます。私も演出と撮影と編集までやることもしばしばあります。でも、それは特に変わったことではなく、「普通の」実写の監督です。
一方で私がアニメーションの仕事をする時は、アニメーションは作りません。ほとんどの仕事は演出だけです。アニメーションはアニメーションの専門家が作ってくれるんです。アニメの仕事はアニメを作る技術が無いとなれないと思ってしまいますが、私のようなスタンスでもアニメの仕事は成立します。むしろ私は自分で手を動かしてアニメーションを作らないので、たくさんのアニメーションの仕事が出来るんです。
例えばこれは『しまじろうのわお!』という番組で作ったアニメーションの歌です。
私の仕事は、「アユモドキの歌を作りたい」という企画を作ることから始まります。そして企画が通ったら歌詞を書きます。歌詞は魚類の専門の先生に監修してもらい、その監修に従って歌詞を修正します。歌詞が完成したらコンテを書きます。コンテが出来たらアニメーションの制作をお願いします。
この『アユモドキのうた』は、アニメーション制作会社のCALFさんにお願いして、関口和希さんが実際に手を動かしてアニメーションを作っています。私はアニメーションを作る工程で何をしているかと言うと、アニメーションになる前のイラストにOKを出したり、監修の先生とやりとりしたり、アニメーションが出来てきたら、それに対してOKを出したり修正をしてもらったりしています。要するに演出だけをやっているんです。そういう意味では、実写とやっていることは変わりません。自分のイメージに最大限近づけるように努力するのが監督の仕事です。
でも考えてみると、アニメーションは作れないけど、アニメーションの演出だけをしたい仕事にどうやって就けばいいのか分からないと思います。先に言っておきますが、私にもその方法は分かりません。私がたまたま流れ流れてそういう仕事に就けただけなんだと思います。
でも、最終的にアニメの演出だけをやる演出家になる方法ははっきりしています。アニメーション制作会社に入ってアニメーターから始めて、認められてチャンスを掴めばアニメの演出家になれます。でも、必ずアニメの専門技術を習得しなければなりません。私のようにアニメーションの専門技術無しでアニメの演出を仕事にするのは、何らかの奇跡や偶然が重なる必要があるんでしょう。
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