一人の作家につき一つの作風論
いま、映画のシナリオ開発でいろいろと葛藤しています。一番葛藤しているのは「面白さ」についてです。釜山に行った時にも多くの人が言ってたのは、「どんなトップスターが出ててもストーリーが面白くなければヒットしない」という事です。
まあそうなんでしょうが、私はハラハラドキドキするような、最初から最後まで目が離せないようなサスペンスドラマを面白いとは思わないんです。それが世界的に大ヒットしてようが面白いとは思わないんですよね。
でも、多くの人はそういう「面白い」ストーリーこそが正解で、そういうストーリーを考えるべきだと思ってます。そして多くの映画人もそういう面白さを追求しています。
私は「そういう面白さが多くの人から面白いと思われる」を知ってしまったので、葛藤してるんです。私が作りたい映画はそういう面白さではないんですが、そういうエンタメ色の強い面白さを入れないと、多くの人が納得しないんじゃないかという葛藤があるんです。多くの人というのは観客もそうですし、一緒に作るプロデューサーやスタッフやキャストもです。
この葛藤はかなり創作の邪魔です。模範的な読書感想文を書こうとしているようなものですから。そんなものを作るぐらいなら、本当は作らない方がいいんです。時間とお金の無駄なので。
ちなみに私は今まで作ってきた映画でその葛藤に負けたことはありません。だからこれからも自信を持って作ればいいんでしょうが、「その程度の成功で自信を持ってるからその程度なんだよ」と、もう一人の意地悪な自分に言われるんです。「多くの人が面白いと思う面白さから逃げるな!」と胸ぐらを掴まれて、後頭部からコンクリートの地面に叩きつけられるのです。もちろん脳みそが出てます。この葛藤は、年を取れば取るほど強くなっていきます。
でも私は石田徹也くんの映画を作るに当たって、彼の作風の変遷を調べていて気づいたことがあるんです。それは、「その作家が一番最初に大きくデビューした時の作風こそが、その作家の真の作風である。」ということです。
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