映画祭日記(2008年ロカルノ国際映画祭)
※当時書いた日記をそのまま転載しています。
1日目
成田からの飛行機のチケットが取れなかったため、関空からの出発。いや、成田からのチケットはあったのだが、30万円ぐらいしたのだ。関空からシンガポール経由でチューリッヒに入った方が10万円近く安い。なのだが、シンガポールってのはヨーロッパに対して、日本から横に移動しただけなので、シンガポールに7時間かけて行っても、ヨーロッパには近づいておらず、さらに12時間飛行機に乗るのだ。 ここまででもう1日目が終わる。そういえば、シンガポールに着陸したところで、となりの飛行機がエアバスのA380だった。飛行機好きとしては感動。かなりでかかった。
2日目
チューリッヒに着いたところで2日目に入る。チューリッヒからロカルノは電車移動。3時間ほど。念のため、日本で1等車両の予約をしていったので、個室に乗れて快適。窓からはアルプスみたいな山や美しい湖なんかが見える。同行者5人で6人の個室を占領して、ワインで軽く宴会。昼頃、やっとロカルノに着いた。東京からロカルノまで26時間かかった。
駅前のレストランに入って昼食を食べた。ほとんど英語が通じず、メニューもイタリア語版かドイツ語版しかない。勘で頼んでみたのだが、やっぱり勘は勘でしかないので、思わぬ料理が来たりする。それにしても物価が高い。ランチでも1500円以上はする。スイスはEUではないので、通貨はスイスフラン。たぶん、スイスフランに対して円が安いから物価が高いんだろうと思う。
ホテルに行く前に映画祭のメイン会場に行き、関係者用のパスと辞書みたいな分厚いプログラムをもらう。PIAZZA GRANDEという屋外のメイン会場には巨大なスクリーンが貼ってあり、観客数がなんと8000人。席が8000席なので、立ち見を入れたら1万人ぐらいが見れる。1つの映画を同時に1万人が見るってのはすごいことだなあ。
メイン会場から歩いてホテルに着いた。着いてみたら部屋に風呂とトイレが無いことが判明。それでも小ぎれいで広い部屋なので良かった。去年行ったアイルランドの風呂トイレなしは刑務所かと思ったが、今回は大丈夫だ。他の宿泊客も映画祭関係者が多く、割と年齢の高い夫婦なんかが泊まっている。
夜、PIAZZA GRANDEに行き、実際の上映を見てみたら、プロジェクターからスクリーンがもの凄く離れているのに、恐ろしくキレイに映っている。プロジェクターを見てみると、戦車みたいな大きさなのだ。予想なのだが、たぶん軍事用だと思う。予想を超えたモノはなんでもかんでも「軍事用」で片付けてしまうのだが。あ、宮崎駿の作品に出てきそうな形でもある。さらに、音も素晴らしく良い。周りはホテルなどの建物で囲まれているのだが、いろんな音の反射も計算しているんだろうと思う。
3日目
午後からインターナショナルの短編コンペを見に行く。BABINの上映はまだなのだが、コンペを争う作品のレベルが気になる。5本みたのだが、圧倒的にすごい作品はなかった。もうレベルが高すぎて、恐縮してしまうというレベルではないが、確実に面白く、確実に技術がある。そして、作品のコンセプトがハッキリしている。監督のやりたいことが良くも悪くも色濃く出ている作品ばかりだ。
短編の上映会場は1000人ぐらい入る会場で、スクリーンもかなりでかい。BABINは35mmのフィルムで上映ではなく、DCPというデジタルのプロジェクターでHDサイズのムービーデータで上映される。見た目でも35mmよりもDCPの方が圧倒的にキレイだった。ちなみにBABINのデータはHDサイズの非圧縮のTIFFの連番を書き出し、300Gぐらいの容量になるのだが、それをハードディスクに入れて送った。
夜9時ぐらいには疲れてしまい、寝てしまった。
4日目
午後からスイス国内の短編コンペ部門を見に行った。インターナショナル部門と比べるとやはりレベルは落ちる。撮影技術なんかはしっかりしているのだが、話や構成が雑。よく、日本の短編映画のレベルは低いと言われるが、それは日本だけではなく、どこの国に行ったってレベルの高い作品は一部でしかない。去年行ったアイルランドのコークでも国内コンペ部門のレベルは低かった。
でも、これを知ることは結構意義があって、日本にいると、ヨーロッパの人たちはみんながみんな高いレベルで競い合っているというイメージがあるのだが、実際はそんなこともなく、日本と大して変わらない。唯一にして、大きな差は、35mmのフィルムを使っているかどうか。どうでもいい駄作でも、35mmで撮っているので、ある意味、「見るに堪えられる」のだ。日本ではビデオで撮る事が多いので、そこの差は大きいと思う。最近はHDでもかなりいい画質で撮影が出来るから、そこの差は数年でなくなるんだろうけど。
夜、ゴーギャンズのプロデューサーチームと合流。早速、海外のいろんな関係者と会いに行っていた。映画祭は遊びの場ではなくて、将来の作品作りの環境を作る場なんだなあと思った。
それにしても、ホテルでネットがつながらないので、毎日、PIAZZA GRANDEまでパソコンのを持って行って、そこで有料の無線LANが飛んでいるので、30分500円ほどを払って繋いでいる。意外と面倒くさい。
5日目
昼飯は近くのスーパーに行って大量のサラダとパンとベーコンなどを買い、ホテルで食べた。店で食べていると極端に野菜不足になるのだ。ホテルには冷蔵庫が付いていないので、買ってきた食材は食いきる。
午後、インターナショナルコンペ部門の2を見る。前回の1がなかなかのレベルで、今回の2もカタログを見た感じ、相当のレベルの高さだ。一本目に上映されたのが学生の作品だったのだが、もの凄く上手い。カンヌ映画祭でも上映されている学生らしいのだが、その学生を見てみると、どうも35歳ぐらいに見える学生だった。
しかし、その一本以外は予想に反してかなり渋い感じだった。どうも、このプログラムは社会問題をテーマにしたシリアスで重たいプログラムなようだ。途中で席を立つ客も多かった。しかも、悪い言い方をすると「策に溺れた」作品が多かった気がする。極端な構図ばかりでつないでいたり、ショッキングな映像を多用したり。それで言うと、自分の作品も下ネタを多用しているので、ある意味策に溺れているのかもしれない。
今回、日本と中国から作品が初めてセレクションされたらしいのだが、その中国の監督作品も上映された。セリフがなく、映像と、間に挟まる黒の背景に白文字で書かれた文章で話を引っ張る構造。かなり国際映画祭を意識して作られた作品だと思う。その中国の監督は23歳ぐらいなのだが、舞台挨拶でも堂々としていたなあ。マイクを持つ一方の手をポケットに入れたりして。英語の発音もいいし。
観客の反応と審査とはズレがあることは承知しているのだが、やっぱり作品を見て、観客に笑ってもらえる方が監督としてはうれしい。だから、仮にこの先社会派で硬派な作品を作ったときには、上映時に会場にいたくないと思う。
そんなことを考えさせられるプログラムだった。
それにしても、ホテルの部屋にテレビがないので、オリンピックとは無縁の生活をしている。こっちにいる人も、オリンピックには興味がないようだ。
6日目
今日はBABINの上映日。昼から今日上映する長編短編の監督や関係者だけのビュッフェパーティみたいなのがあった。ゴーギャンズの江口さんと少し会場に遅れて行ったら、誰もいない。やばい、遅刻しすぎたかと思ったのだが、誰も来ていないだけだった。イタリア時間なのかなんなのか、「日本人の遅刻」ぐらいでは追いつかないのんびりさ加減。
そして、短編の監督がそろって会場入り。上映の前に監督が1人ずつ挨拶するのだが、午前中、どうしたらいいのかずっと考えていた。ある程度の予備知識を観客に与えないと、日本の作品だしついて来られないのではないか、という意見があったりしたのだが、やはり、上映前に作品の内容を言ってしまうのは無いだろうと判断し、割とサラッとした挨拶にした。もちろん英語で挨拶したのだが、メモを読んだ。さすがに暗記する時間はなかったなあ。暗記してた方がカッコ良かっただろうけど。
BABINは今日のラインナップの4本の最初。割と狙ったところで笑いが取れている。それにしても、この作品は何度も見ているのだが、自分的には不満や不足感がかなりある。これでいいんだろうか?と上映中に何度も考えた。上映はあっと言う間に終わったが、観客はなかなかの反応。すべての上映が終わり、会場の外に出ると、いろんな人から褒めてもらった。街を歩いていても、呼び止められ褒めてもらった。ホテルのオーナーも見に来てくれ、褒めてくれた。
どうやら上映は成功したようだ。BABINはコンペ部門の全ラインナップの中でもある種浮いている。BABIN以外の作品は、人間の感情のヒダを丁寧にしっとりと描いている。長回しでタップリとした「間」も取っている。BABINは、オナラ、立ちション、ウンコと下ネタ盛りだくさん。ここまで違いがあると、あとは審査員の好き嫌いで決まるんじゃないかということだった。
上映後、昨日ロカルノに着いた主演の堀部さんやスタッフ一同と、上映後の打ち上げ。上映後の評判が良かったので、みんな美味しいお酒が飲めた。思うに、今日の上映後が映画祭期間中で一番幸せな瞬間なんだろうとも思う。上映の評判は良かったが、賞をもらうだなんて思わない方がいい。今まで欲をかいて賞をもらった試しがない。それに関してはさんざん痛い目を見てきた。賞の発表があったら、また悔しさを胸に帰国するんだろう。
堀部さんの合流でさすがに話も盛り上がり、いつもより遅い時間まで食事をした。それでも10時ぐらいが限界で解散。
7日目
今日はBABINの上映の2回目。舞台挨拶が無いので気が楽。と、毎日、映画祭の事ばかり書いているが、映画祭に来ているのでそれしか書くことがない。でも、例えば知り合いが「西アジア馬術選手権7日目」と、毎日、馬術選手権の日記を書いていたら読まないだろう。
午前中にBABINの上映があり、そこそこウケていた。昨日とは会場が変わり、画面がかなり小さくなった。午後からスイス国内のコンペ部門を見た。国内部門は相変わらず超満員。舞台挨拶も60~70人ぐらいいる。スイス国内の若い監督達にとっても晴れ舞台なんだろう。
夕方から映画祭主催のパーティにみんなで行った。ゴーギャンズの棗田さんと江口さんが海外の映画関係者にBABIN関係者全員を紹介してくれた。今まで何度も応募して落とされ続けてきた北欧の大きな映画祭があるのだが、そこの人がBABINを見てくれていて、そこの映画祭で上映してくれることになった。この話の早さと言ったら想像を絶するものがある。そして、相変わらずBABINに関するイイ情報が入ってくる。BABIN関係者全員、期待感がどんどん膨らんでいる。
そのパーティで、映画祭のディレクターが昨日の舞台挨拶を褒めてくれた。ワタナベさんの作った「Helsinki」Tシャツを着て舞台挨拶をしたのだが、「I came from...」で、胸元の「Helsinki」を見てから「Japan!」と言ったらウケたのだ。前の日から仕込んだネタだったのだが、勇気を振り絞って900人の前でやって良かった。その感じとBABINのトーンが似ているとも言われた。ロカルノに到着した日、駅で「Helsinki」Tシャツを着てうろうろしていたら、外人の観光客に「お前、日本人でしかもロカルノにいるのに、何でHelsinkiなんだよ!」と爆笑されたのがヒントになった。って、まあ「ネタ」って言うほどのことでも無いのだが。
その後、堀部さん達が最後の夜だということもあり、BABIN関係者全員で美味しいと言われている店に行った。美味しいと言われているだけあって、ロカルノの映画祭の最高責任者も来ていた。そこでタルタルステーキを食べた。タルタルステーキというのは生肉をたたいたユッケみたいなものなのだが、夏場でしかも海外って事で、ちょっと怖いのだが、すでに2回目。生肉好きとしては、生肉メニューがあったら抑えきれず注文してしまう。「当たって下せろ!」の精神で食べるのだ。
聞いた話なのだが、映画祭のパーティやミーティングではほとんどサッカーの話が出てこないそうなのだ。ヨーロッパの人は日本人以上にサッカーには熱くなりそうなものなのだが、映画祭にいる人たちはインテリなのでサッカーの話はあえてしないらしい。映画祭でサッカーの話をすると知的レベルが低く見られ、バカにされると言っていた。それでも構わずサッカーの話をするのはイタリア人と日本人だと言っていた。
海外に来ると一週間ぐらいで必ず扁桃腺が腫れるのだが、今回も腫れた。ビールやワインでアルコール消毒をしているのだが、治る気配はない。この調子だと、映画祭が終わる頃に治るんだろう。
8日目
朝、堀部さんと野口さんが帰国するというので、ちゃんと空港行きのシャトルバスに乗れるかちょっと心配になり見に行ったが、ちゃんとマルペンサ空港行きのシャトルバスに乗って帰国された。こうやってみんなどんどん帰って行き、明後日にはまた5人になってしまうのだ。日本からミラノへの直行便は、ミラノ郊外のマルペンサ空港に着くので、空港からのシャトルバスに乗れば簡単にロカルノに着く。知らなかったなあ。
今日は一日中雨なので、朝から寒い。雨が降ると傘がいるのでとにかく移動が面倒くさい。昼ご飯はスーパーで野菜を大量に買って食べた。ついでに馬のたてがみのベーコンもあったので食べた。馬のたてがみは結構美味しかった。
午後からスイスのアニメーション特集を見に行った。かなり期待して見に行ったが、全体的に退屈な感じがした。手描きやCGやクレイなどいろいろあるのだが、割と作りが大ざっぱで話が面白くない。チェコのアニメなどを見てしまっていると、かなり物足りない。
夕方から映画祭のイベントに参加。ブラジルの短編の監督がメチャクチャ話しかけてくるので、丁寧に聞いてみたら、半分ぐらいは聞き取れた。こっちはブロークン過ぎて原型をとどめていない英語で話したのだが、通じていたようだ。いや、通じたフリをしていてくれたのか。しかも、パーティ的な場所なので、音楽もうるさく、10cmぐらいまで近づかないと、全く何を言っているのかわからない。英語のヒアリングをする場所としてはかなり過酷な場所。音楽の渡邊さんが、長時間スイス人と話し込んでいたので、「何話してたんですか?」と聞いたら、「よくわからなかった。」と言っていた。
夜、PIAZZA GRANDEの巨大スクリーンでスイスアニメの巨匠の短編が上映されるということなので見に行った。スクリーンは巨大なのだが、会場も巨大なので、相対的な見た目の画面サイズは普通の映画と変わらない。でも、スクリーンの前で舞台挨拶している人を見ると、ものすごく小さい。将来、PIAZZA GRANDEで自分の作品を上映して、前で舞台挨拶したいなあと思った。
ホテルに帰って寝たら、急激に腹が痛くなった。便所に行ったら「内戦か?」ってぐらいの下痢だった。一気に血圧が下がって倒れるかと思った。「当たって下せろ!」の精神でいろんなモノを食べているので、計画通りの下痢だ。急いで下痢止めを飲んだのだが、何度も便所を往復した。思い当たるモノはいろいろあるので、何が原因かはわからない。だってもう水道水も飲んじゃっているし。
9日目
午前中から短編の監督を集めたパーティ。冒頭の挨拶があり、「ここでいろいろ議論してくれ。」という事だった。1人で行ったら何も出来ないと思い、ゴーギャンズの棗田さんに来てもらい、かなりのプレゼンをしてもらう。
欧米人は議論好きなのだ。高校生ぐらいのヤング審査員が5人ぐらいいるのだが、彼らもかなり突っ込んだ質問をしてきた。きわどい質問や、こっちがまるで答えを用意してなかった質問の場合、歌舞伎とマンガを引用して説明するともの凄く納得することもわかった。「それは見る人の解釈に任せます。」とか「単なる思いつきです。」とか「偶然の産物です。」とか、そういう答えはどうもイヤがる。どこまで行っても映画はインテリのやることらしい。それは作品にも言えて、観客の喜怒哀楽を動かすだけの映画はレベルが低く、知的な議論をふっかける映画の方がレベルが高いようだ。特にフランス人なんかは、「全く面白くない映画がわかる自分って知的。」って人が多いとも言っていた。
昼にVIPOの方々と昼食。昨日来て今日帰る、みたいな強行スケジュールで来ていた。
午後からインターナショナルコンペ部門の上映を見に行く。この回はなかなか面白い作品がいくつかあった。BABIN、行けるかも!と思っていたスタッフ一同も、ちょっと冷静にならざるを得ない感じ。一つ、夫婦の漫才みたいな作品があったのだが、腹抱えて笑う人がいるほど会場は大爆笑だった。
夕方、日本から参加している吉田監督の「症例X」をちょっと離れた会場に見に行った。BABINとは間逆の、社会問題をテーマに繊細に描いた長編作品。
その後、吉田光希監督も一緒に、近くのすし屋に行った。久しぶりに鮨やそうめんを食べたら、ものすごく美味しかった。やっぱり、日本のダシはいいなあと思った。スイスは海がなく、魚が一番高い食材で、さらにそれを生で調達しなければならないのが大変らしい。
その後、ゴーギャンズチームが明日帰るというので、みんなで飲みに行き、いろんな話をした。とにかく、英語がしゃべれなければ始まらないのだが、日本人は監督にしても音楽にしても役者にしても、仕事が丁寧でレベルが高いので、ホントに語学さえ出来れば、普通に仕事があると言っていた。まあとにかく、地道に英語の勉強をしていくしかないなあ。
日本で映画監督を職業として食べていくのは、収入という面から見て、至難の業なのだが、どうもヨーロッパでは監督の取り分がかなりある。例えば、2億円の映画で2000万円。だから、2年とか5年に一本しか撮らない監督でもやっていけるみたいだ。日本だったら下手したら、2億円の映画で200万円なんじゃないか。だから、ヨーロッパの映画監督は尊敬されるし、日本の映画監督は映画バカとしか思われない。悲しい国だなあ。
10日目
午後から短編インターナショナルコンペの5を見に行った。これで全作品を見たことになる。アメリカ人のCMディレクターが作った作品が、かなり面白そうだとチェックしていたのだが、音楽がB級のアメリカ映画みたく、エンドクレジットでロックがかかっちゃったりして、もったいない気がしたが、ヨーロッパの人はどう感じるんだろうか。
それにしても2500本の応募作品から20数作品が選ばれているのだが、いまいちその基準がわからなかった。とにかく、国、手法、トーンがバラバラで、いかにバラバラにするかが基準とも言えるのかもしれない。共通しているのは撮影などの技術クオリティの高さと、「見応え感」かもしれない。見応え感は、つまらない作品にもあって、「あー、スゲーつまらない大作見ちゃった。」という見応え感がある。で、そのつまらない作品は、他の人から見たら、面白い作品かもしれないので、やはり、共通しているのは「見応え感」なんだと思う。
10日も経つとさすがに疲れてきた。毎日がピザな感じなので、日本に帰ったら、かも南蛮とか、カツオのたたきとか、納豆ご飯なんかを食べたい。あー、書いただけでよだれが出てきた。
来月またフランスの映画祭に2週間行くのだが、今度は1人で行く。通訳なしで。しかも、世界中から集まってくるスタッフ達をまとめて1本の映画を作るというワークショップをやらなければならない。かなり七転八倒するはずなので、そっちの日記の方が面白いかと思う。ロカルノから帰ったら英語の特訓だな。
11日目
午前中から電話がかかってきて、寝ぼけたまま出てみると、受賞の知らせが。英語でよくわからなかったのだが、なんらかを受賞したようなので、パリにいるプロデューサーに電話して聞いてもらったら、グランプリではないが、準グランプリに当たる賞なのだそうだ。その瞬間、「金」じゃなかったかー、という悔しい気持ちの方が上回った自分にビックリ。やっぱりグランプリとそれ以下には差があるのだ。こっちではグランプリを「Golden Leopard」と言い、金のヒョウの像と賞金100万円ほどがもらえ、さらにアカデミー賞にノミネートの対象になる。
惜しいなあと思っていたところにまた電話が来て、ヤング審査員賞も受賞しているとのこと。ヤング審査員というのは15歳~18歳ぐらいの5人の審査員が選ぶモノ。グランプリは獲れなかったが、ダブル受賞で気持ちも落ち着いた。インターナショナルコンペは4つ賞があり、2位と3位を受賞したような感じらしい。
ヤング審査員はBABINの上映後にも、BABINチームのところに駆け寄ってきて、みんなしてすごく褒めてくれていたのだ。さらに、先日のパーティでも駆け寄ってきて質問攻めにされたぐらいだから、よっぽどBABINが気に入ったんだろう。若者に支持されるのも悪くないなあ。とはいえ、もう一つのスポンサー賞は、スポンサーが選ぶのではなく、正式なコンペの審査員に選ばれているので、大人と子供の両方から評価されたことが嬉しい。BABINはあまりにも特殊な作品だから、大人の審査員は怖じ気づいたか?と自分に都合のいい解釈をしておいた。
さらに、独自のひねくれた方法論で作ってきた作品が、最高レベルの場で認められたことがさらに嬉しい。「人と違う事をしている」という事をヨーロッパの人は価値のあるモノとしてとらえてくれる。日本ではどうしても「邪道」扱いされるんだけど。
夕方からBABINチームで祝杯をあげた。イタリアンを食べたあと、中華料理屋まで行った。みんないつもよりもよくしゃべり、楽しかった。そして、次回作についても話をした。今回の作品を踏み台にし、さらに強力な作品を作ろうと思う。
明日には正式発表があり、授賞式がある。こんな事もあろうかと思い、スーツ一式を持ってきていたので、もしかしたら着るかもしれない。とは言え、ラフな事で有名な映画祭なので、どうしようかと考え中。
12日目
昼から受賞者が集まってのパーティ。そこによく話しかけてくるブラジル人の女性監督がいたので隣に座った。彼女から「おめでとう」と言われ、「ありがとう」などと言いながら話をしていた。彼女は何でこの席にいるんだろうと思い、「あなたの賞はなんですか?」と聞いたら「ゴールド!ワオ!」と言われた。完全にノーマークの作品だったし、映画祭のミスで字幕が付いておらず、全編ポルトガル語の作品で理解できていなかった。それにしても、その監督はBABINの上映後、BABINをもの凄く褒めてくれて、監督にもかかわらず「私の作品よりも良かった」などと言っていたのだ。いろんなパーティでもいろいろ話していた監督なので、意外だったが嬉しかった。
その後、会場で受賞監督がひとりずつ写真を撮られる。彼女はゴールドの豹の像を持っている。自分はそういう賞ではないのでトロフィ的なモノは無い。この悔しさは半端なかった。金の豹を持った彼女には映画祭のカメラマンだけではなく、プレスの記者が群がって写真を撮る。彼女はロカルノの前にいくつか映画祭にエントリーしていたのだが、予備審査でことごとく落とされていた作品がグランプリになり、もの凄く驚いていた。
午後からプレス会場での表彰式。そこで「銅」にあたるスポンサー賞と、ヤング審査員からの「金」をもらった。映画祭の賞というのはなかなかいろんな事情も絡んで決まってくるらしい。正式に言うと、「Prix Film und Video Untertitelung」賞と、「Prix Cinema E Gioventu」賞。前者がオフィシャルな審査員が選んだ賞で、後者が若い審査員8人ぐらいが選んだ賞。オフィシャルな審査員が選んだ中では2番なのだが、コダックアワードというものがあり、コダックの人が選ぶ賞が公式にはシルバーになるのだ。だからBABINは「銅」にあたる事になる。シルバーと3位の違いがまたすごく、3位まではプレス会場で授賞式をされるのだが、ゴールドとシルバーはメイン会場で8000人の観客前での授賞式なのだ。この悔しさもまた格別だ。
プレス会場での表彰式のあと、その場でパーティになったのだが、若い審査員達が次々に来て、ちょろっと質問してくる。そして、最後に「作品のDVDが欲しい。」というのだ、一人目にあげたら次々と来る。ストレートに言わずに、質問してから言う。その辺が高校生らしくかわいい。ある一人は、母親と一緒に来て、ウチの娘がDVDを欲しいと言っているって親に言わせていた。DVDをあげると、まるで100万円でも手にしたかのような喜びで去っていく。嬉しかったなあ。
そこでオフィシャルの審査員にも話しかけられ、ヨーロッパではアヴァンギャルドこそが評価されると言っていた。「あなたの作品は日本でも人気があるんじゃないですか?」と言われたので、「まったく人気がありません。」と言っておいた。
夜、BABINスタッフで祝勝会。ダブル受賞だけを見たら、かなり嬉しく素晴らしいことなのだが、やはり「金」じゃなきゃダメなのだ。グランプリこそが「勝者」で、それ以外は「勝者」ではない。マラソンやゴルフと同じ。
次回作の話などをするのだが、やはりネックはお金。BABINではショートフィルムとしては最高に高い予算で作っている。次回作ではそこまでのお金を集めることは出来ないと思うのだ。でも、もう後戻りは出来ない。また初心に戻ってこぢんまりとビデオで撮る気にはなれない。やっぱり、世界レベルで勝負するには、少なくとも技術的には最高レベルの仕事をしてないと、話にならない事もわかったから。その上でのストーリーであり、仕掛けであり、感動だったり、演出だったりするのだ。
さらに、夜11時半からもクロージングパーティ。さすがに疲れて30分ぐらいで帰って寝た。
13日目
朝5時半にロカルノ駅に集合し、3時間かけてチューリッヒ空港へ。まあ、行きと同じコースを通って帰るので、家に着くまで30時間かかる。
空港で、映画祭の期間中、家で仕事をしながら青の世話もしてくれていた妻へのおみやげを買う。「何がいい?」と聞いたら、「気持ちだよ、気持ち。」と、難問を吹っかけられていたので、いろんなパターンを考えてみたが、まあ、数で勝負だと、いろいろ買ってみた。
トランジットで寄ったシンガポールのチャンギ国際空港は24時間の空港で、すべての免税店やレストランなどがずっとやっている。無料の映画館や屋上にプールもある。乗り換えもしやすい。それに比べちゃうと、羽田や成田なんて3流の空港にしか見えない。
明日から、また日常が始まる。2週間後にフランスの映画祭に行くから仕事も入れられなかったので、実家にでも帰って釣りにでも行こうかと思う。
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