🐣【神経発達症について医師が解説します：総論】

前置き

私は、児童精神科医になるため大学病院で研修医をしています。医師としてやりたいことは、臨床現場で得た知識や勉強した情報を発信することです。対象は医療関係者だけでなく、それ以外の方にもわかりやすく説明したいと思います。きっと皆さんのお役に立つ情報をお届けできると思うので、どうぞよろしくお願いします。記事に対してコメントをいただけると私も勉強になるので、感想でも知識でもいろんなコメントをお待ちしております。それでは本題へどうぞ。

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神経発達症ってなあに。

「神経発達症」と言われて聞いたことがない方は多いかと思います。これは医学用語であり、一般的には「発達障害」と呼ばれています。とはいえ、神経発達症という言葉は比較的新しく、DSM-5（精神障害の診断と統計マニュアル）では2013年から、ICD-11（WHOの疾病国際分類）では2019年からこの言葉が正式に載り始めました。そのため、医師でも精神科医や小児科医でなければ知らない方は多いです。

ところで、一般的に呼ばれている発達障害と聞いたときにどんなイメージを持つでしょうか。変わった人、コミュニケーションが取れない人など色んなイメージがあると思います。ですが的を得たイメージをするのはなかなか難しいです。
最近では芸能人や著名人が自身の発達障害をカミングアウトするという例も見かけるようになり、ニュース等のメディアでも取り上げられることも増えました。そこで取り上げられるのは、「生きにくさの原因は発達障害だった」とか「発達障害と診断されて原因がわかってホッとした」と言った個人的な感想が目立ちます。ただ、それを見ていて本当に正しい情報や当事者にとって役に立つ情報が行き届いてるのか疑問に思います。疾患概念はなんなのか、診断を受けることにどんな意味があるのか、どんな支援を受けられるのかというところまで知ると、世間のイメージとは少し変わります。私もイメージを変えられた人のうちの1人です。勉強するとイメージが変わります。

図1：筆者が元々持っていた神経発達症と定型発達のイメージ図

図1について…
私は神経発達症の勉強を始める前までは図1のようなイメージを持っていました。定型発達の人は全てが定型発達の特徴で、神経発達症の人は全ての特性に異常があるというイメージでした。よくよく考えたらそんなわけないのですが、勉強不足で勝手にそんなイメージになってしまっていました。でも実際は、診断があっても発達特性がすごく気になる時もあれば、全く気にならない時もあります。図1だとそれを表現できていないですね。図2で正しい表現を示します。

図2：発達特性と定型発達の新たな視点でのイメージ図

図2について…
この図を使うと神経発達症のイメージが少し変わるかもしれません。発達特性は神経発達症の診断に関わる特徴を示し、定型発達はそれ以外の特徴を示すとします。皆さんには、この図のどこかに図のような自分だけの赤縦線があります。そして、Aが発達特性の割合、Bが定型発達の割合になります。赤線が右に行くほどA（発達特性）の割合が多く、B（定型発達）の割合が少なくなります。逆に、左に行くほどA（発達特性）の割合が少なく、B（定型発達）の割合が多くなります。この図はあくまでイメージなので、臨床現場で実際にこの割合を検査して数値化するものはありませんが、神経発達症の診断はこの発達特性の内容と実際の困り感から診断します。
この図のポイントは、どれだけ定型発達に見えても少しは発達特性があり、どれだけ神経発達症に見えても少しは定型発達の特性があるところです。ということは、人類皆神経発達症と診断することもできるし、逆に皆定型発達と言うこともできます。環境次第ではどちらに傾けることもできます。こう考えると、なるべく早くに特徴に気づいて、正しく環境調整をすることが大切だとわかります。
本人にとってはその特徴を受け入れてくれる世界にいるのが1番ではあるのですが、そんな世界はなかなかありません。生まれた世界がたまたま自分の特徴だと生きにくく設定されていたという状況なんですね。例えるなら、日本語しか喋れない日本人が1人で外国へ飛ばされたとしましょう。そこでは言葉も通じないし、文化や考え方も違い、できないこともあるしトラブルも起きます。するとそこでは日本人であることを障害とされます。でも、日本人であることを受容し、その国の言葉や文化や考え方を教えてくれる人がいれば生きやすくなりますよね。その国に馴染んでいくまで時間はかかりますが、これが環境調整です。そして今世間はこの環境調整を積極的にしていこうという流れになっています。そこについても今後発信していこうと思います。

神経発達症の定義

神経発達症とは、たくさん種類がある神経発達症の総称です。野菜で例えるなら、「野菜」が「神経発達症」で、トマトやブロッコリーなどが具体的な疾患名です。各疾患は神経発達症と呼んでもよく、これは野菜でも同じで、トマトもブロッコリーも野菜と呼んでもいいですよね。DSM-5では神経発達症群/神経発達障害群、ICD-11では神経発達症群という名前で括られています。

神経発達症の種類

DSM-5とICD-11とで表記が異なるため、分けて表記します。

●DSM-5

神経発達症群/神経発達障害群（Neurodevelopmental Disorders）

1、自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害
2、注意欠如・多動症/注意欠如・多動障害
3、限局性学習症/限局性学習障害
4、知的能力障害群
5、運動症群/運動障害群
6、コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群

●ICD-11

神経発達症群（Neurodevelopmental Disorders）

1、自閉スペクトラム症
2、注意欠如多動症
3、発達性学習症
4、知的発達症
5、発達性協調運動症
6、発達性発話または言語症群
7、常同運動症
8、レット症候群

だいぶ表記の仕方に違いがありますね。

どれも聞いたことはあるかもしれないけど、説明しようと思うとうまくできませんよね。医療関係者じゃない人にイメージや特徴を聞いたところ、全員間違えていました。それだけ間違ったイメージが一人歩きしています。

今回は総論なので、今後は上記の疾患の各論を投稿していこうと思います。ぜひ気になる神経発達症の各論を見ていってください！

Dr.Egg🥚