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怪談「清掃会社」

清掃会社の若い社長から聴いた話。
A氏は20代で起業し今では20名程の社員を雇う企業に派遣する清掃業の社長となっている。

昨今の人手不足で、規模を大きくしたくても人が集まらないのが悩みの種だそうだ。

そんな中である会社のビルへ清掃へ行くと決まって社員が「辞めたい」と言う。
理由を言わずそのまま来なくなる社員も居て心底困っていた。

「最初はそこの会社の社員とかに嫌がらせとかトラブルでもあるのかな?と思ったんですよ。でもそうでもないみたいなんです」と意味深なことを言う。

「社長、あのビル出るんですよ」と古参の社員で主任の男が言った。
「出るって何が?」と聞き返した「幽霊ですよ」と当然だろうという顔で言った。

「幽霊?そんなものいる訳ないだろう、みんな大人なんだからさ、そんな言い訳しないで不満や文句があるなら言ってよ」と幽霊を信じないA社長言った。

「なら社長も現場に行ったら」と主任に言われた。

小さな会社で社長も現場に入ることは珍しくない。
それに社員がこれ以上辞められたら経営に大きな影響も出て来る。

社長はそのビルへ行くことにした。

仕事は会社の課業時間外の深夜に行く。
それでも残業している社員もいる場合もあったりするし、それはビルや企業で様々であった。

深夜なのでオフィス街も暗く静まり返っている。
清掃チーム6名でそのビルへ入り、清掃作業に入る。
廊下にワックスを塗り、乾いたらポリッシャーで床を磨いて行く。

そのビルの6階の廊下での作業をしていた時のことであった。
他の階と何か違う雰囲気で・・・・気味が悪いし温度が急に下がったような気がしたそうだ。

主任が社長に声をかける、「社長ここ何か変でしょう?ちゃっちゃっとやってしまいましょう」と言う。

昼間はきっと多くの社員で賑わっているいるであろうオフィスも電気が消え静まり返っている。

ワックスを塗り乾くまで上の階へ作業へ4名が移動する。
残った社長と若い部下の2名がポリッシャーを準備してワックスが乾くのを待つ。

すると若い部下がそわそわし出した「どうした?」と社長が聴く。
「ここ・・・出るんですよね?この前辞めたSさんが幽霊見て大声出して逃げてそのまま退職した・・・本当ですかね・・・」と怯えだした。
「どうした急に、そりゃ廊下以外は電気も点いていないし不気味だけれど何もいないじゃないか、怖くない、怖くない」と社長は部下を宥めた。

「社長・・・じゃアレはなんですか?さっきからこっち見て立ってる女の人」と指さした。

「何言ってんだ、そんな人いないだろう」と指を指した方を振り返って見た。

確かに女が立っている、でも幽霊か?暗いけれど人間だろう・・・ハッキリ見えているのだから・・・。

社長は部下の手前平気そうに女に声をかけた「すみません、清掃中でワックスを廊下に塗って乾くの待っているんですよ、足跡が付いてしまうので・・・」と言った途中でゾクっとした。

「あっ・・・この女・・・人間じゃない・・・・だって浮いてるもん・・・・」と社長は気づいた。

部下に落ち着いて言った、7階へ行けみんなと合流しようと・・・。

逃げるように7階へ移動し皆と合流した。
「どうしました?」と主任が言った。

「出たよ・・・幽霊・・・」と社長が言うと他の社員が「やっぱり・・・」と呟いた「社長、私会社を辞めさせて頂きます」と社員が言い出したので社長は「いや、待ってくれ、事情を話してここの契約を打ち切るから、頼むから辞めないでくれ」と懇願した。

こんなビルで作業して次々に社員が辞めてしまったら会社は潰れると社長は決断した。

翌日、このビルの管理事務所へ行き事情を話した。
すると意外なくらい簡単に「ああ、そうですかしょうがないですね。実は他の業者も直ぐに契約を打ち切りましてね、よくあるんですよ。ここの会社午後9時過ぎの残業は禁止でね、理由は判るでしょう出るから。警備会社もよく契約途中で辞めるし困っているんですよ。ただこのビルに幽霊が出るって言わないで下さいよ。契約期間途中で辞める条件です」と言われた。

後々に他の同業者と話をした時にこのビルの話題になった、その業者もここの契約を打ち切ったと言う。

「あそこさ、ブラック企業で残業が酷くて過労死した女が午後9時過ぎになると6階で出るらしいのよ、それから何人も社員が亡くなってさ、午後9時以降の残業禁止にしたらしいのよ」と清掃業と警備業界じゃあのビルは敬遠されているらしく有名なのだとか。




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戦車兵
チップありがとうございます!!無理なさらず御覧頂けたら幸いです。