トップのガン?

映画「トップガン　マーベリック」がTVで放送されましたね。
映画館で３回見に行きました。

トップガンと言えばパイロットの話ですよね?

私が居た部隊に特科から陸曹候補生の時に機甲科へ転科した３曹がいました。
ハッキリ言って使えないダメ３曹で問題ばかり起こしていました。

戦車の操縦手でしたが下手過ぎて戦車を壊してしまう程・・・・。

通常下手過ぎて壊すってそうそうないし、ましてや陸曹では聴いたことが無い。

エンジンを吹かし過ぎてとかあり得ないのだけれど・・・。
他職種からの転科組にはこんなのがよくいるし、使えないのを他職種、他部隊から押し付けるかたちは旧軍時代からの悪弊だ。
戦車部隊の増強で新編部隊が作られた頃の話だ。

素行も悪く言ったらきりがない。
私が思い出すのは・・・・彼は私有車を新車で購入した。
土曜日の昼に自慢気に残留者に見せていた。
「結構高い車だぞ」と周りも「乗せて」と騒いでいた。
翌朝の日曜日、同じ場所に事故車が置いてあった。

自衛隊ではたまに事故車を展示して「交通三悪撲滅運動」をしたりするので「いつの間に事故車の展示したんだろう?それにしても酷いな死亡事故車輛か？」と思った。

後輩が言った「昨日まで新車だったのに・・・・」と・・・そうだ昨日のあの新車だ・・・・。

運転していたのはダメ３曹の彼だった。
事故現場はなんと駐屯地内だったらしい、しかも飲酒運転だったとか・・・それなら懲戒免職だろうと思ったがケガを負い病院送りだったが、駐屯地内の話だったせいか処分はされなかった。

阪神淡路大震災で関西出身の彼は郷里の部隊へ転属となった。
ただ、特科部隊へ・・・陸士までのモスしかなかったので直ぐに北海道の部隊へ転属させられたとは聞いていた。

数年後、自衛隊は「部隊間交流」等で今まで同じ部隊から動くことも無かった隊員が、他師団、他方面隊、他職種の転属の経験の無い者を強制的に期限付きで転属させた。

私はそれ以前に他師団からの転属組なので関係の無い話ではあった。
私は実家の近くの駐屯地へ行った。
駐屯地祭で戦車部隊もあり知り合いが多数各部隊から転属して来ていた。
懐かしい顔、会いたくも無い奴といろいろ居た。

私はこの地元の戦車部隊とは不思議なことに縁が無かった。
田舎の部隊で出来れば敬遠されがちで、地元出身の私なら真っ先に「実家の近くなら転属したいだろう」と飛ばされそうなのだが・・・行きたくない奴が飛ばされたのは皮肉な話であった。

そんな部隊で昔お世話になった幹部に会った「あいつここにいるぞ」と突然あのダメ３曹の名を聴いた、まだ３曹なんだ・・・。

聴いた中隊へ行った「ダメ３曹いますか?」と、当直陸曹はちょっと驚いて「ダメ３曹ですか・・・失礼ですがどのような」と言うので身分証明書を見せた。
「判りました」と電話で呼び出してくれた。

しばらく待ち、入り口でポケットに手を突っ込み睨むダメ３曹が立っていた。
「よう!久し振り、上で✕✕３佐からここにいるって聞いてさ面会に来たよ」と言ったら、急に笑顔になり「どうしてここに」と言った。

ダメ男だが悪い奴ではないのだ。

いろいろ話をしたが唐突に「俺・・・この部隊のトップガンなんだ」と照れ臭そうに言った。
私はそれを聴いて「そう・・・・まぁそうだろうね・・・それにしても酷い事いうね」と言った。
「え！いやそういう意味じゃないよ、いやそうとられてもしょうがないし、そう思うのも判るけれど」と言った。

「ん!?違う意味?トップのガンって意味だろう？」と言った冗談で言っているのではない。

すると部隊の玄関へ案内された。
そこには各種競技会で表彰された隊員を顕彰する顔写真付きで「銃剣道優秀隊員」「持久走優秀隊員」「体力検定１級隊員」「空挺レンジャー」「冬季遊撃」等の隊員の顔写真と名前があった。

ダメ３曹は指を指した「戦車射撃最優秀砲手」に彼の写真と名前があった。
「トップガン」ってそういう意味かーっと笑った。

トップガンとその部隊では呼ぶらしい。
他部隊でもそう呼ぶのかは知らない、私の居た部隊の時代には「トップのガン」は聞いても砲手をトップガンというのは聴いたことは無かった。

ダメ３曹は転属してきて砲手になった初年度で最優秀砲手としての成績を残したらしい。
ただ部隊でもちょっと浮いていたらしく、知り合いが遠い田舎街まで来てくれたのがよほど嬉しかったらしい。

ダメ３曹からトップガンへ昇進したのは意外であった。

トップガンと聴くとこのことを思い出す。