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怪談「軍服」

軍服を収集しているT氏は自宅に大量の軍服を置くと家族に嫌がられるのでアパートを借りて軍服コレクション専用の部屋を持っている。

部屋には明治時代の陸海軍の貴重な軍服から、昭和の陸海軍や自衛隊関連の制服まで収集している。

部屋にはかなりの量の軍服で保存するにも眺めるにも処狭しに積んであったり、貴重な軍服はハンガーにかけておいたり、様々な形で保管していたそうだ。

コレクションの中には血染めの軍服もあった。
今なら「そんな気持ち悪い物」と敬遠されるだろうが、戦前は戦死した軍人の誉れの軍服として大事にされていたものであった。

そんなT氏であったが、仕事が多忙でコレクション部屋に行けない日が続いた。

そんなある日、毎晩眠ると「苦しい、なんとかせい、重い、どけてくれ」と血だらけの軍人が枕元に立つようになった。

気味が悪いのだが、「祟られたかな?」と思う程度で気に留めなかった。
それより仕事が大変だったのだ。

その内に、だんだん眠れなくなってきた。
仕事のストレスもあったし、兵隊の幽霊が夢の中じゃなく現実に出るようになったからだ。

疲れて帰宅し、とにかく眠ろうと布団に入るがなかなか眠れない。
視界の片隅に何か居る・・・・・軍服を着ている。(この話をしてくれたT氏はこと細かにこの軍服の型式名称と軍服の話をしてくれたのだが、全く覚えていないので割愛する)

「おい、重いからどけてくれ!!苦しいんだ!」と陸軍中尉の階級章を付けた軍人の幽霊が訴えた。

なにがなんだか判らないが「ごめんなさい」と手を合わせるしかなかった。

幽霊は消えた。

それを見てT氏ははっとした。

「あの軍服の型式はあの軍服だ!」と気が付いたのだった。

直ぐに起きて車に乗りコレクションのあるアパートへと向かった。
部屋に入るとハンガーにかけていた軍服が全て床に落ちており、その下に血染めの軍服があった。

たくさんの軍服に押す潰されて重かったろう。

軍服を取り除き、血染めの軍服に手を合わせた。

その後、T氏の会社は倒産し、軍服コレクションも売ることにした。
ネットオークションで売ると中国人コレクターが高値でいつも買い取って行ったそうだ。

「それが悔しくてならなかった」と悔しそうに語るT氏の顔が本当に悔しそうだった。

なお、会社が倒産したのは幽霊のせいではない・・・・と思う。



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