声が聴きたい

ほとんど毎週決まった時間に
お店に通っていればたいてい
店員さんも固定化されてきて
数人は顔なじみになってきた
ときどきおしゃべりもするし
同じひとが相手であることは
思いのほか安心感をもたらす

穏やかに話すお気に入りの店員さんが
いるはずと思っていたのにいない日が
2回続いただけでとてつもない違和感
自分の感情にいちいち戸惑うくらいに

ああわたし 会えなくてさみしいのか

あの低く抑えた声が聴きたい
他のお客に話しているときの
テンション高めの声じゃなく
わたしに近距離で話すときの
力を込め落ち着かせている声

最後に会ったときレジで広げた
メニューに消毒液が残っていて
彼はぐっと手で押し広げ拭った
外見は文句なしにチャラいひと
仕事柄なのか挙動は柔らかめで
いい体そうで実はちょっと猫背
今まで積み上げた印象を一瞬で
消し去ってしまうほどに強烈な
その手はとても男性の手だった

ああわたし 会えなくてさみしいのか

たぶん彼からすると今は1年で
仕事が一番忙しい時期だと思う
だから会えないことに何かしら
予測のような理由付けはできる
けれどわたしは素直な気持ちで
低く落ち着かせた声が聴きたい

だってわたし 会えなくてさみしいから