なでなで

あのときわたしにできることは
はっきり言って何ひとつなくて
だからただの気休めだとしても
なでなでしとこうと言い出して
あなたの肩や腕をさすったけど
不幸がうつるかもしれんなんて
あなたは力なく俯き笑っていた

それ以降しばらくの間あなたはときどき
さりげなくわたしにふれることがあった
それは体をちょっとくっつけた立ち話だったり
書類の下で手の甲を合わせる程度だったけれど
あなたもわたしもきっとあのときは
お互いの存在を熱で確かめるように
お互いふれることを必要としていた

わたしはあなたに救ってもらったから
あなたの抱える不幸を少しばかりなら
わたしは引き受けてもいいと思ってた
わたしはあなたに救ってもらったから

今あなたは幸せにやっているかしら
出だしでことごとく躓いた暮らしも
軌道に乗って日ごとに体に馴染めば
すべて楽しめるようになるのかしら

あなたもわたしもきっとあのときは
お互いの存在を熱で確かめるように
お互いふれることを必要としていた
今はもう必要としなくなったかしら
あのときなでなでしてきたわたしを
忘れられるくらいになったのかしら
戻りたいわけではないけれど思うわ
引き受けてもいいと思っていたのよ
真心をもってあなたの抱える不幸を
少しばかりならわたしに預けてよと