古事記考察⑧天の岩戸の謎
※こちらの古事記考察は独自解釈になります。
≪ここまでの流れ≫
十一代天皇から十四代天皇までの系譜における不自然さ。婚姻問題を終わらせた息長帯日売命についての記述の違和感。何度も折られる十拳剣。
これらの謎は天の岩戸に隠されている。
天岩戸の神話とは、次のような話である。
スサノオの悪行を黙認していたアマテラスだが、スサノオが機織り娘を死なせてしまったことで天の岩屋に隠れてしまう。国は闇に包まれ、災いが蔓延する。
アマテラスを呼び戻そうと神々は岩戸の前で祭りを始めた。騒ぎが気になって岩屋から顔を覗かせたアマテラスに、鏡を差し出してアマテラスを引っ張り出す。
こうしてアマテラスは岩屋から出て、高天原も葦原の中つ国も明るくなった。
岩戸に隠れると言えば、古墳などの埋葬が思い浮かぶ。しかし、岩戸に隠れることが埋葬されることならば、生き返って再び顔を出すことは有り得ない。どういうことだろうか。
謎を解くカギは、系譜の違和感にある。ヤマトタケルだ。ヤマトタケルは、十二代天皇の子であり、十四代天皇の父である。にもかかわらず、十三代天皇になっていない。
ヤマトタケルの話は十二代天皇の事績の中にたくさん書かれている。そのひとつが、ミヤズヒメとの婚約である。
ヤマトタケルとミヤズヒメは次のような歌を交わしたとされる。
“久方の 天の香久山 とかまに さ渡るくび ひはぼそ たわやがひなを
まかむとは あれはすれど さ寝むとは あれはおもへど
ながけせる おすひのすそに つき立ちにけり”
“高光る 日の御子 やすみしし わが大君
あらたまの としがきふれば あらたまの つきはきへゆく
うべなうべなうべな 君まちがたに
わがけせる おすひのすそに つき立たなむよ”
このやり取りは、一般的には、ミヤズヒメに月経が来た歌とされているが、私の解釈は少し違う。
この歌は、遠征に行く前には月経もまだだったミヤズヒメに対し、「お久しぶりです、月経がはじまったと聞きました」と声をかけたヤマトタケルに、ミヤズヒメが「わが君、新たな命を得たら月経は止まるんですよ。あなたを待っていた私の月経はきていません」と返しているのだ。
月経について交わされただけの歌ならば、古事記に残す必要はない。妊娠を喜ぶミヤズヒメの様子と、二人のちぐはぐな会話。これはミヤヅヒメを妊娠させたのがヤマトタケルではなかったことが判明した瞬間のやり取りなのだ。
喜んで報告するミヤズヒメは、きっと相手の男をヤマトタケルだと思って結ばれたのだろう。
ヤマトタケルの心情は、おそらくこの歌に表れている。
“なづきのたの いながらに いながらに はひもとふろふ ところづら”
『許婚(いいなづけ)の私がいるというのに、田の稲幹(いながら)に這い回り絡みつくトコロヅラ(つる草)のような野郎め』
これも私の独自の解釈である。文法等の細かいことは分からず感性で読んでいるため、正しいと主張できる自信はない。だが、歌からは強い憤りが伝わってくるように感じる。
古事記の説明では、これはヤマトタケルが亡くなったときに后や御子たちが田を這いまわって泣いた歌とされている。だが、それは天皇の事績の中での説明だ。つまり、この事件があったスサノオ国ではなく、それを知らないツクヨミ国の説明なのだ。歌の意味を正しく理解できずに、あとから説明を付け加えている可能性は十分あるだろう。
自分の過ちを知ったミヤズヒメはどうしたか。続けてヤマトタケルの歌を独自解釈しながら読み解いていく。
【続く】