古事記考察⑩アマテラスに渡された鏡
※こちらの古事記考察は独自解釈になります。
≪ここまでの流れ≫
スサノオ国を治める山代大筒木真若王の血筋の娘として、天皇となる子を産む必要があった息長帯日売命。そのために、十二代天皇の子・ヤマトタケルと婚約したが、間違えて別の男の子を妊娠してしまう。
彼女は自分の過ちを苦に自死してしまう。これが天岩戸のきっかけとなった機織り娘の死であり、天の岩戸に隠れたアマテラスである。
天の岩戸では、岩戸に隠れたアマテラスが、再び顔を出す。この時、鏡が差し出される。この鏡は何なのだろうか。
神話において鏡が出てくるのは、天の岩戸とニニギノミコトの話だけだ。
ニニギノミコトは、葦原の中つ国が平定されたのちに天降した。
その際、アメノコヤネ命、フトタマ命、アメノウズメ命、イシコリドメ命、玉祖命を伴ない、思金神、手力男神が付き添い、八尺勾玉、鏡、草なぎの剣を持っていったという。
これらの登場人物も、勾玉、鏡も、天の岩戸を開ける際に登場する。天の岩戸とニニギノミコトの話は同じ出来事を表していると考えていいだろう。
ニニギノミコトが持っていたとされるのが、八尺勾玉、鏡、草なぎ剣の三種の神器だ。
勾玉は、神話の中でイザナキからアマテラスに渡されたものであり、アマテラスとスサノオの誓約においてもアマテラスの持ち物とされた。アマテラス国の象徴といえる。
草なぎ剣は、十拳剣に代わるスサノオ国を治める証だ。
そして鏡。天の岩戸では出てきたアマテラスに渡され、ニニギノミコトにも特に大事にするようにと渡されている。
アマテラスの勾玉、スサノオの剣、と並ぶとなれば、鏡はツクヨミ国の象徴だろう。
スサノオ国の息長帯日売命が出産前に亡くなった。
そのスサノオ国には、息長帯日売命のお腹の子の孫娘・息長真若中比売が戻ってきて出産した。
だが、天の岩戸から出てきたアマテラスは、それとは別の、ツクヨミ国へ行った息長帯日売命なのだ。
この息長帯日売命は、古事記で息長帯日売命とされる神功皇后だ。
神功皇后には、いくつもの不思議な話がある。
・妊娠中にお腹の子が国を治めた。
・お腹の子が男子であることを神が告げた
・お腹に石をつけて出産を遅らせた
・喪船を用意して御子は亡くなったと言った。
・息長帯日売命は亡くなったと偽った。
だが、ここまでの話を見れば、なんら不思議なことはない。これらは、神功皇后が妊娠して亡くなった息長帯日売命の身代わりとなったことから生じた話だ。石をつけて遅らせたというのも、出産のタイミングがおかしかったということだろう。
ニニギノミコトは、神功皇后のお腹の中で即位したとされる十五代天皇だろう。
十五代天皇は、葛城曾都比古の娘を娶り、その子が十六代天皇となり、その血筋が二十五代まで続く。
ミヤズヒメの死に、慌てて神功皇后を代理としたのは、ミヤズヒメの子が葛城曾都比古の娘を娶る予定が、すでに決まっていたからなのかもしれない。三国を統治する天皇に葛城曾都比古の娘を娶らせる予定だったのだろう。
しかし、ミヤズヒメの死によって、スサノオ国の血を含まないままに十六代天皇になってしまった。
古事記をよく読むと、ニニギノミコトが天降りする際に持っていたとされる草なぎの剣は、天の岩戸では登場していない。当然だ。天の岩戸から出てきたアマテラスのお腹の子には、スサノオ国を治める血筋は入っていないのだ。
持っていないはずの草なぎの剣を持っているニニギノミコトの話は、この一件をよく知らない者が書いたのかもしれない。ニニギノミコトがコノハナノサクヤビメを娶っている不自然さも、そのためだろう。
コノハナノサクヤビメは、妊娠した子が夫の子ではないと言われる。これはミヤズヒメのエピソードだ。
コノハナノサクヤビメは出産に際して「戸のない八尋殿に入った」というが、これも「天の岩戸に入った」に通じる。
「火をつけて出産した」とされるので、ミヤズヒメは火葬された可能性がある。神功皇后が神がかりした際に、灰を瓢にいれ海にまくように言われるが、この灰はミヤズヒメの遺灰なのかもしれない。
こうして、天の岩戸と同様に、コノハナノサクヤビメは別の人に代わり、本来のコノハナノサクヤビメはイワナガヒメとして姿を消した。
イワナガヒメを娶れば天皇の命は長く続いたのにというのは、本来の息長帯日売命であるミヤズヒメの子であれば、その血筋がずっと続いたのに、という意味だろう。
ミヤズヒメの血筋を含まない十六代天皇の血筋は二十五代まで続くが、二十六代・継体天皇の登場によって途切れることになる。
継体天皇は、若沼毛二俣王の男系の血筋である。
ミヤズヒメのお腹から出てきたのが息長田別王、十五代天皇が息長田別王の孫娘を娶って生まれたのが若沼毛二俣王だ。
継体天皇によって、ようやく三国を治める血筋の天皇が誕生し、継体天皇が二十四代天皇の娘を娶ることによって、葛城曾都比古の血筋も加わった欽明天皇の誕生となった。この血筋が現在まで続くことになる。
そして古事記は、欽明天皇の子どもたちが天皇となったことを記して幕を閉じる。