古事記考察⑦折れた十拳剣
※こちらの古事記考察は独自解釈になります。
≪ここまでの流れ≫
日子坐王が治めることになったスサノオ国。十一代天皇は日子坐王の娘を娶るが、子のホムツワケ命はスサノオ国を治めることができず、天皇になれなかった。
日子坐王の後、スサノオ国を治めたのが山代大筒木真若王だ。天皇は山代大筒木真若王の子孫の娘・息長帯日売命を娶ろうとする。
だが息長帯日売命には、どこか不自然なことがある。
ここまでの流れを念頭に、アマテラスとスサノオの神話を見てみよう。
スサノオは、あごひげが胸元まで伸びても泣きわめいていて、国はひどい状態だった。
あごひげの表現は、ホムツワケ命にも同様の記述がある。ホムツワケ命がスサノオ国を治められなかったという解釈に矛盾はない。
国を追いやられたスサノオはアマテラスのもとへ行き、ふたりは誓約をする。
スサノオがアマテラスの勾玉から五柱の男神を生み、アマテラスがスサノオの十拳剣から三柱の女神を生んだ。
アマテラスとスサノオの誓約は、アマテラス国とスサノオ国の約束だ。
スサノオ国ができる前の【十市】がひどい状態だと七代天皇が相談したのも、ホムツワケ命がスサノオ国を治められないと相談したのも、アマテラス国だった。
アマテラス国は協力する代償として、七代天皇のときにはアマテラス国の子をスサノオ国の王とすることを求め、ホムツワケ命のときには大きな社を作ることを求めたのだろう。
五柱の男神と三柱の女神は、スサノオ国のために協力したアマテラス国の人々と考えられる。
アマテラスの勾玉から生まれたの五柱の男神が、アメノオシホミミ命、アメノホヒ命、天津日子根命、活津日子根命、熊野久須毘命である。
『アマテラスの勾玉』とはアマテラス国の女性のことであり、五柱の男神はアマテラス国の女性を母に持ちスサノオ国のために尽力した男性たちを表している。
アメノオシホミミ命は七代天皇、アメノホヒ命は七代天皇の兄・大吉備諸進命だ。二人の母は天押帯日子命の娘であり、二人はスサノオ国の国作りを始めた。
天津日子根命、活津日子根命、熊野久須毘命については特定できないが、このうち二人は日子坐王と山代大筒木真若王だろう。二人の母もアマテラス国の女性であり、二人はスサノオ国を治めた。
一方、この誓約でスサノオの十拳剣を三つに折って生まれたのが、奥津島比売命、市寸島比売命、多岐都比売命の三柱の女神である。
三柱の女神を生んだ十拳剣は、『黄泉の国と葦原の中つ国』の考察で、大吉備津日子が戦いに用いた【十市】平定の証であり、国譲りで日子坐王に渡された、と解釈した。
この十拳剣は、神話の中で何度も折られている。
アマテラスとスサノオの誓約では、十拳剣が三つに折られ、代わりに三柱の女神が生まれた。
八岐大蛇では、八岐大蛇の尾を切ったときに欠け、代わりに草なぎの剣が出てきた。
山幸彦の話では、失くしたサチの代わりを作ろうとして砕かれる。
十拳剣はなぜ折られるのだろうか。そして折れた十拳剣から生まれた三柱の女神は誰なのか。
息長帯日売命の謎。折れた十拳剣。
実は、これらは同じ出来事に起因している。それが天岩戸だ。
【続く】