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古事記考察⑨岩戸に隠れたアマテラス

※こちらの古事記考察は独自解釈になります。

≪ここまでの流れ≫  
 ヤマトタケルと婚約したミヤズヒメ。待望の妊娠だと思っていたのに、結ばれた相手はヤマトタケルではなかったことを知る。

 ミヤズヒメは地獄に落とされた気分だっただろう。出産を間近に自死を選んでしまう。ヤマトタケルは、たとえ自分の子でなくても、ミヤズヒメのお腹の子を救おうとしたのだと思う。
 ヤマトタケルの歌を独自解釈で見ていく。

“あさしのはら こしなづむ そらはゆかず あしよゆくな”
『まだ死からそう時間は経っていない。腹の子は死んでいないかもしれない。空を行くことはできないが、悪しことよ、子にいかないでくれ。』

“うみかゆけば こしなづむ おほかはらの うゑぐさ うみかはいさよふ”
『うみ(海?羊水?)が良かった。子は死んでいなかった。大きなお腹の中で、水草の様に羊水をただよっている。』

 子の命だけは救えた。だが、ミヤズヒメは亡くなってしまった。

“をとめの とこのべに わがおきし つるきのたち そのたちはや”
『少女の枕元に置いた守り刀の短刀のように、短くして命が断たれてしまった。』

 くり返すが、これらの和歌の解釈は私の勝手な解釈である。文法も用語もあいまいだし、正直よくわからない部分もある。だが、この解釈がただの妄想とはいえない理由がある。

 ヤマトタケルの妻子の項にミヤズヒメの名前はない。代わりに、次のような記述がある。
  一妻之子、息長田別王
一妻は、『ある女性』や『名もない女性』と解釈されているが、それにしては子が『息長』の名を持っているのは違和感がある。
 この『一妻』とは『ひとつま』であり、他人に奪われたミヤズヒメ、本来の名は息長帯日売命を表していると考えられる。

 また、夫がいないのに娘が妊娠した話も古事記に残されている。オオタタネコの話に続いて書かれている三輪山伝説だ。これまでの考察で示したように、オオタタネコは山代大筒木真若王であり、山代大筒木真若王は息長帯日売命の曽祖父である。

 三輪山伝説では、夫がいないのに娘が妊娠したことに驚いた両親が、男の素性を明かそうと、赤土を撒き、糸をつけさせる。翌朝糸を辿ると、糸は鍵穴を出ていき、三輪山に繋がっていたことから、男は三輪山の神だったことが分かる。

 鍵穴は胎児のへそであり、糸はへその緒。繋がっていた山は胎盤と考えられる。ここに書かれているのは、へその緒によって赤ちゃんと胎盤が繋がっている様子なのだ。
 赤ちゃんのへその緒は、三輪山の神に繋がっていたという。三輪山は御諸山であり、そこに祀られているオオミワノ大神は息長帯日売命だ。

 『ミヤズヒメ』は仮の名なのだ。宮とは子どもの宮、子宮を意味している。同じ名を持つ宮津湾も子宮の形に似ている。
 別の男性の子を身籠った息長帯日売命。息長帯日売命の自死。そして帝王切開での子の誕生。
 それら公にできない事情のために、息長帯日売命は本来の名を隠し、ミヤズヒメや、他人に奪われた女性である『ひとつま』の形で書き残されることになった。
 そして、子は助かったものの、お腹を割いて子どもを出す、というのはかなり衝撃的な出来事だ。ヤマトタケルが天皇にならなかったのはこの一件があったためだろう。

 このミヤズヒメの死が、神話において十拳剣が折れたと表現される出来事である。

 十拳剣は、大吉備津日子命から日子坐王に委ねられた、スサノオ国を治める証である。
 この血筋とスサノオ国を治める役割は、日子坐王から山代大筒木真若王に受け継がれ、息長帯比売の子に続くはずだった。

 八岐大蛇の神話では、尾を切った時に十拳剣が欠けている。代わりに尾の中から出てきたのが草なぎの剣だ。草なぎの剣はアマテラスに渡される。
 尾を切ったというのは、続いていた血筋が途切れたことを表している。
 尾の中から出てきた草なぎの剣は、ミヤズヒメのお腹から出てきた息長田別王だ。息長田別王はアマテラス国で育てられることになる。

 アマテラスとスサノオの誓約では、スサノオの十拳剣を三段に折って三柱の女神が生まれている。
 息長田別王の子・「杙俣長日子王」には三人の娘が生まれている。
 この三人の娘が、誓約で生まれた三柱の女神だ。スサノオ国を治めてきた十拳剣の血筋が途切れ、息長田別王の子に三人の娘が生まれたのだ。

 十五代天皇はその中の一人を娶っている。それが、十拳剣を砕いた山幸彦の話だ。

 海幸彦のサチを失くしてしまい、十拳剣を砕いて代わりを作った。しかし、代わりのものでは許してもらえない。
 山幸彦は海を渡り、海神の家に行き、豊玉姫に会う。豊玉姫は妊娠し、海を渡り、ウガヤフキアエズ命を出産する。

 失った海幸彦のサチはスサノオ国のミヤズヒメのことだ。だが、亡くなったミヤズヒメを返せと言われても、返すことはできない。
 困った十五代天皇は、杙俣長日子王の三人の娘がいる家に向かう。そこで、三人の娘の一人を娶ることになる。娶った豊玉姫が「息長真若中比売」だ。
 神話では、豊玉姫は妊娠して海を渡っている。ということは、息長真若中比売は妊娠してスサノオ国へ行ったのだろう。

 以前の考察で、御諸山のオオミワノ大神は息長帯日売命と考えられるが、海を渡ってくるのは考察と合わないと述べた。
 だが、確かに海を渡ってやってきたのだ。妊娠していなくなったミヤズヒメの代わりに、妊娠した息長真若中比売が海を渡って戻ってきた。
 誓約で女神の誕生に喜んだスサノオのように、スサノオ国は喜び、息長真若中比売を御諸山に祀ったのだろう。

 豊玉姫は産屋を建てる時間もないままに、ウガヤフキアエズを出産する。
 息長真若中比売が生んだのが「若沼毛二俣王」だ。
 ウガヤフキアエズは叔母を娶っているが、若沼毛二俣王もまた叔母を娶っている。

 叔母ということは、杙俣長日子王の三人の娘のひとりだ。つまり、杙俣長日子王の三人の娘のひとりはスサノオ国で若沼毛二俣王を出産し、ひとりは若沼毛二俣王の子を生したことになる。十拳剣を折って生まれた三柱の女神は、スサノオ国のために尽力したのだ。
                           【続く】

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