[小説]ギフト~渡辺陽太~
あいつと同じ掃除場所になるなんて・・・、と一瞬落ち込んだものの、さっさと終わらせて帰ればいいだけだと気持ちを切り替える。メンバーはおれとあいつと他に男子2人、女子2人だった。場所は中庭。暑い中で外の掃除はさらに気分を憂鬱にさせる。
「具体的に何やればいいんだ?中庭の掃除って」
みんなで移動する中、豊中が両手を頭の後ろに組んで伸びをしながら言う。
「とりあえず掃いときゃいいんじゃないの?」
田中は中庭に目線をやりながら言う。
中庭に着くと八代先生がいた。
「あ~来た来た!これで全員かな?中庭の掃除は草むしりです。ではお願いしま~す。後で確認に来るからね!」
と笑顔で言い、そして肩につかない程度の長さの、毛先のまるくなった髪の毛をふわふわさせながら校舎の中へ入って行った。その先生の背中に向かって
「え~!!草むしりかよ!!罰ゲームじゃん!」
「やだよせんせ~!中庭広いよ~!」
と口々に不満を漏らす。先生はその不満を聞いておれたちの方を向き、笑顔でガッツポーズをした。
「いやいやいや、せんせー!」
まだまだ不満の止まない豊中と田中。女子2人も空を見上げて
「マジかー」
「手ぇ、汚れるのやだ~」
と文句を言っていた。
手が汚れるって、どこ掃除しても手は汚れるだろ。何言ってんだこいつ。
するとあいつが豊中の左肩に手をあてて言った。
「もういいからやろう。オレ今日早く帰んなきゃいけないんだよ」
「あ~妹の迎え?」
田中が両膝に両手をついた状態であいつに視線を移して言う。
「そう。今日オレの番なんだよ。だからさっさと終わらせて行かないと」
そう言いながらあいつは座り込み、草をむしり始めた。すると他のみんなもあいつの周りに座り込み草をむしりながらあいつに話しかける。
「へぇ~!陽太くんて妹もいるんだね!」
山崎が嬉々とした表情であいつに話しかける。
「陽太6人兄弟だから。もう一人妹と弟もいるもんな」
田中があいつの代わりに答える。
「え?!お前6人兄弟なの?!3年の兄貴だけかと思ってたわ」
豊中が目を見開く。
「6人兄弟って今時珍しいね。渡辺くんは何番目なの?」
斉藤さんがずれためがねを手の甲で直しながら聞く。
「オレは真ん中。上から姉貴、兄貴、オレ、妹、弟、妹」
あいつは草をぶちぶち引っこ抜きながら答える。
そこからはもうあいつへの質問大会だった。田中は同小だったらしく、あいつの家のこともよく知っていた。あいつの代わりに質問に答える場面も多々あった。今日迎えに行く妹は3歳で近くの保育園に通っていることや、父親は建設業で小さい会社を経営してること、母親は保険会社の事務をやっているなんて知りたくもないことがどんどん耳に入ってきた。
豊中が高2のあいつの姉貴に興味津々なこととか、田中は3年の兄貴とも仲がよくてしょっちゅう家に遊びに行ってることとか、ほんとにどうでも良かった。聞けば聞くほどイラついてくる。おれはさっさと終わらせることだけに集中して草をむしりまくっていた。
そのうち話題はそれぞれの家族構成の話になっていった。しっかりと存在を消していたのに、豊中はおれに話を振ってきた。
豊中はいつも余計なことをする。