理想郷を照らす光
その青年は、遥か彼方にあるとされる理想郷に向かっていた。
その理想郷では温かな光が満ち溢れていると聞いていた。
そこでは穏やかで満ち足りた生活をおくれるのだと。
その青年はその理想郷を目指し、険しい道を進んでいった。
道中青年は何度もその志を挫かれそうになった。
ある時は醜い現実を見せつけられ。
ある時は己のふがいなさに打ちひしがれ。
ある時は理想郷にたどりつけないのではないかと、不安に襲われた。
それでも青年はあきらめなかった。
それでも青年は歩みを止めなかったのだ。
それ程青年の理想郷に対する想いは強かった。
青年は旅を続け、遂にその理想郷とされる場所にたどり着いた。
そこで青年は目にした。
その理想郷には光がなく、ただただ暗い茫漠とした原野が拡がっていたのだ。
青年は膝を折って、その場にへたりこんでしまった。
理想郷などなかったのかと、私の歩みは無駄だったのかと。
そこにある村人が青年に近寄ってきた。
その村人は言った。光にあたらせてくれないかと。
青年は返した。この地に光などない、あるのはただただ拡がる原野だけだと。
村人は首を振った。
いいえ、光は確かにここに在ります。それはあなた自身です。自分を見て御覧なさい、と。
青年は言われるままに自分自身を見返してみた。
そうすると確かに青年は、自分から光が溢れているのを見ることが出来た。
辺りは薄暗かったが、青年と青年の周囲は光が溢れ、暖かだった。
村人は言った。
あぁ、なんてあなたは、あなたの周囲は満ち足りているんだ、と。
そうしていると、辺りに隠れるようにして立っていた他の村人達が、青年の周りに集まってきた。
そうして青年の周囲には、暖かい光が満ち足り、人々が安堵する理想郷が築かれていった。
そうしてそこは光に満ち溢れ、穏やかで満ち足りた生活を送れる理想郷となった。