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布団から #シロクマ文芸部
布団から今日も声が聞こえる。
「今日はずいぶん遅かったね」
「ちょっとやらなきゃいけないことがあって。週末だから忙しくてさ」
「...足が冷たいなぁ」
一応就寝時間が遅くなった理由をきちんと述べたのに、そんなことは聞いていないとばかりに不満が飛んできた。
「あぁ、さっき靴下脱いでから洗面所に行っちゃったからかも」
「寒いよ寒いよ」
「ごめんごめん」
なおも続く不満の声に、少しはマシになるだろうかと布団の中で両足をもぞもぞとこすり合わせる。
「今日は、何してたの?」
「え?何って普通だよ、いつもと同じ。仕事して家に帰ってきて、それだけ」
「それだけ?じゃあ、今日は何食べた?」
「えーと、なんだったかな。昼は会社の近くの定食屋で、夜は弁当買ってきてさっき食べたよ」
「ふぅん、おいしかった?」
「まぁ、普通かな」
「また"普通"だ」
布団はつまらなそうに言った。
そう言われても、普通は普通だし普段の生活で「今日何してた?」なんて聞かれても、そう毎日特別な出来事や誰かに話すほどの楽しいことがあるわけでもない。朝起きて仕事に行って、家に帰ってきたら家のことをやって、また次の日のために眠る。それの繰り返しだ。
「じゃあ明日は?何する?」
「明日は休みだからとりあえずゆっくり寝るよ」
「それはとてもいいね、賛成。でも、明日は"普通"じゃないこともしない?」
「なに?普通じゃないことって。休みの日くらい何も考えずにゴロゴロしたいんだけど」
「ゴロゴロもいいよね。でもね、明日はお天気のいいにおいがしてるよ」
「あーわかったそういうことか」
「ふふふ、久しぶりに気持ちいい太陽を浴びたいなぁ」
「わかったわかった、ちょっと早めに起きて布団干すよ」
「やった。とてもいい"普通"じゃない日だね」
「いや、定期的に洗ったり干したりしてるじゃん。普通だよ」
「いい天気の日は普通じゃなくて特別に気持ちいいんだよ」
「まぁね、そりゃそうだ。じゃあ、早起きついでに近くに新しくできたパン屋でも行ってみるかぁ」
「新しいパン屋さんに行くは"普通"じゃないごはんだね、いいじゃない。きっとふわふわの美味しいパンに会えるよ。太陽をいっぱい浴びたお布団のようにね」
「はいはい、絶対干すからそんなにチクチク言うなって」
そう言いながら外に出していた手で布団を上からぽんぽんと叩くと、布団は嬉しそうにもこもこと波打った。
目を瞑りながらそんなささやかなやり取りをしているうちに、足はすっかりあたたかくなり、いつのまにかするりと眠りに落ちていく。
布団とのいつもの会話。
誰も知らない、僕だけの普通の毎日。
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