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草むしりと洗車をするゴールドラッシュスタイルの父


父の日なので、父のことを書こう。

散々ここでも披露しているちょっと変わった私の父。


父は古風だ。
そして真面目だ。と思う。

あまり多くを語らないため、未だに父は私の中で得体の知れない謎を多く隠し持っている気がしている。
とはいえ家族なので、彼の日々の生活は間近で見ることができる。
そして彼の古風な部分は、その生活ぶりからも垣間見える。


父は毎日新聞を読む。
朝は朝食を食べながら、椅子に座り背筋を伸ばした正しい姿勢で。
夜はソファに横になり寝転がりながら読んでいる時もある。


父はテレビを見る時は基本的にNHKを見る。
間違いなく受信料の元が取れてるなと思えるほど見ている。
稀に民放のバラエティ番組や野球中継を見ていることもあるが、ドラマなどはまず見ない。そして民放が流れていると、わいわいと盛り上がるような場面で「うるさ。」と言ってチャンネルを変えているのもよく見かける。
母のうるささには黙っているが、テレビの騒がしさはあまり好きではないらしい。


父は夕食前に必ずお風呂に入る。
そしていつもぴったり綺麗に分けた七三の髪を、お風呂から上がって髪を乾かすと再びセットして固め直す。ずっとそうしていたから昔はなにも思わなかったが、今思うとかなり変わっている。

彼の髪の毛が自由に風に揺れる時間は、お風呂を出てからドライヤーで乾かすわずか10分ほどしかないということだ。
私がもし髪の毛だったら窮屈すぎて文句を言いたくなりそうだ。
「いやいや今綺麗にしたばっかりじゃないですか、ミストなんてかけないで下さいよ」と嘆くと思う。


父は毎日髭を剃る。
ぷしゅうと白いもこもこのシェービングクリームを出して、鏡の前に立ち、カミソリで丁寧に剃っている。
私は幼い頃、その姿を見て母に言ったことがある。

「うちのお父さんって、おじいちゃんよりも昔の人みたい」

「なんで?」

「だって、おじいちゃんは電動のヒゲ剃りなのにお父さんは手で剃ってる。パンツもおじいちゃんはトランクスなのに、お父さんはなんでブリーフなの?おじいちゃんの方が新しくてかっこいい」

ブリーフはダサいという年頃になってトランクスに進化した兄を横で見ていた私は、父だけ時代に取り残され、一人ブリーフを履き続け手動で髭を剃るちょっと遅れた人なのかなと、なんとなくかっこ悪いような印象を持っていた。

「それが好きなんだよ、多分」

母は、知らんけど別にいいじゃんといったような感じだった。
私は子供心に自分の旦那さんがブリーフなのはなんかやだな、と自分が履くわけでもないのに、なんとなく未来のパートナーがブリーフ着用者ではないことをその時願ったのを覚えている。


父はジーンズを履かない。
唯一履く時は、草むしりをする時か洗車をする時だけだ。
彼にとってジーンズの存在意義は「作業着」という一点しかない。
ゴールドラッシュに沸く19世紀半ばの金を採掘する時代から、ジーンズの使用用途がまるでアップデートされていない。


古風だ。古風過ぎる...。


そして古風な部分もあるが、謎も多い。
たまたま引き出しから発掘された昔のパスポートの写真は、今あんなにもかっちりした七三分けなのにも関わらずびっくりするくらいのアフロヘアーだったり、誰かもわからない謎のサインが入った壊れたギターを持っていたり、バレーをやっていたなんて一度も聞いたことがないのに、なにやら寄せ書きが施されたバレーボールを持っていたりと、とにかく父には謎が多い。

そしておとなしい動物のように物言わぬ父にそれらのことを聞いても、話すのがめんどくさいのか、話すことのできない秘密があるのか、ふいっとどこかへ言ってしまって特に多くを語ることはない。


家というのは隔離された一つの世界、社会のようであり、そこに生まれて育つとある種の洗脳のようにその家族内の光景や慣習を「当たり前」のものとして何の疑問もなく受け入れてしまっている場合がある。
しかし、一度その家から離れて見てみると、当たり前ではない特殊な習わしがあったり、摩訶不思議な独自の家庭内ルールがあったことに気づけたりもする。


私は大人になり外から見て、今思うと我が家の父と母という人たちはなかなかおもしろい特徴のある人なのかもしれないなぁなんて思い、ここでも面白おかしいエピソードをつい色々書いてしまっている。

もういっそそんな話だけで一冊の本にでもできそうなくらい、まだまだ不思議な小話はたくさんあるのだが、父のパンツ事情までこっそり公にしてしまっている私は、たとえば本になったとしてもこれを両親に告げることはおそらくないだろう。


知らない間に自分の人生や生活、パンツの種類まで暴露されているなんて、あまつさえ、それをもし本にしたらなんて話をされているなんて、もし逆の立場だったら恐怖でしかない。

こわいことをする人が世の中にはいるものだ。




(お父さん、いつもありがとう)

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