いい時間とお酒なんて
そんなのたくさんあって書ききれないよ。
というくらいある。いい時間とお酒。お酒とのいい時間。
試しに自分の記事検索で「酒」と打ってみたらそれだけで約300個の記事がヒットするというとんでもない数字が出てきた。
銭湯に行って居酒屋に寄り道するレポートや、お酒と共に季節の(薬味)料理を楽しむレシピなどお酒に関するマガジンを書いていたり、呑みながら書く催しに参加していたり、とにかくお酒の気配がする何かによく関わっているというのもある。
しかし検索結果を見てみると、文中にそんな文言が入っているのかファスティングレポートの記事までヒットする始末。まぁ私ったら、断食中にまで酒を...。
つまり私のnoteの記事は、ほぼ酒浸りと言っていい。
それくらい、きっと普通の人よりもお酒が身近にあるのではないかなという私だが、お酒のおかげでいい時間を持てるようになった一番のことと言ったら、やはり父との時間だと思う。
今までのnoteにも度々登場している私の父だが、父ははっきり言ってだいぶ変わっていると思う。
基本的にほとんど喋らない上に、話したとしても敬語だったり抑揚が少ない単調な受け答えが多いため、何を考えているかわからないところがある。
ちなみに姿形でいうと、髪型はぴったり七三分けに四角い眼鏡、休みの日でもジャージやジーンズ姿はほとんど見たことがなく、大体襟付きのシャツを着ている。もちろんシャツはパンツ(ズボン)にインスタイルだ。
これだけであぁ、なんかきっちりした真面目なタイプなんだねというのがわかると思う。そう、それはそれは、めちゃくちゃきっちりした真面目なタイプ。
どれくらいきっちりしているかというと、家族で出かけるという時は出発予定時刻の10分前には家の前に止めた車に乗り込み、オンタイムにあせあせと乗る子どもたちと「あ〜待って待って、あっあれ忘れちゃった〜!」なんて言いながら15分遅れくらいでドタバタと乗り込んでくる母が揃うまで静かに(呆れながら)車で待っている。
つまり彼は約30分くらい、何もせずに運転席にすーんと座っているのである。強靭な心の持ち主。
そんな感じの父なので、私は生まれた時から高校生まで同じ家で過ごしていたはずなのに父のことをよくわからん人だなと思っていたし、今まで深く話したりすることもあまりなかった。
「お父さんキライ!クサイ!」みたいなパパイヤイヤ期や反抗期みたいなものは多分なかったけれど、なんだか近寄りがたいというかフレンドリーではないというか、絶妙な距離感だった。
そしてそのまま私は、大学進学を機に実家を出てしまった。
東京に出てきてからは父と会えるのは年に2回、夏と冬に帰省する時くらいだ。しかも大体2〜3日しか帰らないので、家でゆっくり過ごすような時間は正味1日あるかないかくらいのものだったりする。
それでも、高校までの18年間よりも上京してからの年に2回の方が圧倒的に父との時間が増えたと思う。
それは子どもの頃にはなかった、私たちを繋ぐ新たなツール「お酒」ができたからだ。
父はほぼ毎日お酒を飲む。と言っても飲んだところで陽気になったりよく喋るようになったりはせず、本当に好きで飲んでいるのだろうかと疑問になるくらいすーんとした顔でお茶でも飲んでいるかのように大人しくさらさらとよく飲む。
そんな父は、私がお酒を飲むようになったと知ってからは「最近は何を飲むんですか?」と聞いてきたり、このビールが好きだと言うと毎回帰省するとそれを準備しておいてくれるようになった。
「はい、それでは乾杯」
父の宴の音頭は、テンション的には乾杯というよりも献杯のそれである。
「あー待って待って〜!はいお母さんもかんぱーい!」と言いながら、コーヒーの入ったマグカップを持って場を荒らすのは母。(夜だろうと平気でブラックコーヒーを飲む強者)
静かに乾杯をして、基本的にあまり話さないまま、実家の食卓で横並びに座ってテレビを眺めながらお酒を飲む。
母が「あんた、そういえば〇〇はどうなったのさ?」とか「あっお父さん!〇〇あるよ!食べる?」とか「あら、この人〇〇と結婚したんじゃなかったけ?」とかテレビや私たちに大音量で話しかけるのを騒がしいなぁという顔で聞きながら、2人でお酒を飲む。
要するに、私と父は似ているのだ。だから会話が弾まないというのもある。
でも、あまりしゃべらない父とこうやってお酒を飲むようになってから気づいたことがある。
いつも空港に迎えに来てくれた後、帰りに寄るスーパーですたすたと歩く背中がお酒コーナーに行くとちょっとうきうきしていること。
すーんとした表情で、食卓に自分のお酒と私のお酒を淡々と並べている時の手つきがちょっとわくわくしていること。
隣に座って無言でお酒を注ぎ合っている時の口元が、いつもよりほんのちょっとだけほころんでいること。
これは私が実家で一緒に暮らしている時には見ることができなかった父の姿である。そして、これを見られるのはやっぱり私と父の「お酒の時間」があるからだと思う。
私と父どちらかがお酒を飲まない人だったら、私はいまだに父がどんな人なのかわからなかったかもしれない。
いや、今も大してわかっていない。だってほとんど話さないのだから。
それでも、大人になって新たに生まれたこのゆっくりとお酒を酌み交わす時間が私はすごく好きだ。
ゲラゲラと笑うわけでもなく、お互いの本音をぶつけ合うわけでもない、一見すると何もしていないこの時間がすごくいい時間だと思えるのだ。
もちろん、無言の私たちを相手に一人でトークを回す母もとてもありがたい存在である。ほぼ無反応の我々に対してふてくされることも飽きることもなくぽんぽんと話題をふってくれて、飲んでいるわけでもないのに一番ハイテンションで酒飲みの長丁場の食卓に付き合ってくれるなんて、私には到底できない芸当だ。
私と父のいい時間は、お酒と母によって成り立っているのかもしれない。
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