レトルト三角関係 #毎週ショートショートnote
パウチを取り出す。
ラベルには「恋」の文字。
結婚する前の年、私は揺れる想いに悩んでいた。
そしてその気持ちの1つを、ここに封じ込めたのだ。
その存在をふと思い出したのは、60才になった今日。
パウチを温め皿に開けると、それは金色のスープになっていた。あの頃の迷いもわだかまりも、そこには1つも残っていなかった。
ただキラキラとした透き通る輝きだけを残している。
「ふっ」
そっと口に運んで、思わず笑ってしまった。
拍子抜けするくらい何の味もしなかったからだ。
やっぱりあれは、ひと時の憧れだったのだ。
少しの切なさと、穏やかな安心感が広がる。
「...なぁ、これ」
振り返ると、柄にもなく花を持った夫が立っていた。
「あら、覚えててくれたのね。ありがとう」
「ん。...何食べてんだ?」
「なんでもないの。ちょっと確かめてただけ」
「何を」
「あなたの方がずっと輝いてるってこと」
「なんだぁケンカ売ってんのか」
額を撫でる夫を見て、今度は声をあげて笑った。
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