バイリンガルギョウザ #毎週ショートショートnote
「先輩!駅前に餃子のお店できたんですよ。夜行きませんか?」
「あーごめん、今日はもう夕飯作ってるだろうから」
「そっか...ですよね」
入社以来、兄のように慕っていた先輩が先月結婚した。
「わかった。じゃあ昼行こう。餃子定食おごってやるから」
幼い妹をなだめるような口調で先輩が言う。
最近社内でも結婚や出産によって、働き方や仕事以外の時間の過ごし方が変わった人も多い。
しょうがないんだけどさ。
餃子も別にそんなに食べたかったわけじゃないし、いいんだけど。
"お詫び"の餃子定食を食べながらも、私のそんな気持ちは顔に出てしまっていたのかもしれない。先輩が機嫌を伺うように言った。
「こっちのしそ餃子も食う?」
相変わらず、先輩は優しい。
はい、と小さく答えてしそ餃子を口に入れた時、携帯を見た先輩が呟いた。
「やべ。俺、夕飯も餃子だわ」
どうやら奥さんから今日の献立を知らされたようだ。
やべ、と言いながらもその顔は困っているようには見えない。
私は餃子が並ぶ奥さんとの幸せな食卓を思い浮かべてみたけれど、うまく想像できなかった。
私には投げかけられないであろうその言葉たち、表情、2人のやり取り。
まるで、知らない言語を話しているかのように私には全くわからない。
「いいな...」
思わず呟き、急いで目の前の餃子を口に詰め込む。
「え?うまかった?しそ餃子、もう一個食う?」
先輩は、いつも優しい。
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