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穴の中の君に贈る #毎週ショートショートnote

「やぁ、調子はどうだい?」

返事はない。

「まぁまぁ。そんなに怖がることはない。君ももうじきこの生活が気に入るよ。最初は孤独を感じるかもしれないが、孤独もいいものだ。
暗闇で一人っきり。とても贅沢な時間だと思わないか?誰にも何にも邪魔されずただそこにあるだけの時間を味わう、限りなく自由な世界だ。
孤独も無も、全ては崇高な存在だということが君にもわかる時が来るよ」

男は声高に語ったが、相変わらず言葉は返ってこない。

「まぁいい」

そう言って、男は口笛を吹き始めた。


「やぁ、調子はどうだい?」

上から声が聞こえる。

「ごきげんだね。楽しそうじゃないか」

「ええ、とても。あの子もすぐ慣れると思うんですが...話しかけてもなかなか返してくれなくて」

「はっはっは。そりゃあいい。ほら、食事だ」

男は投げ入れられた食べ物を手探りで拾うと勢いよく平らげた。
固形ではあるが、それが何かはわからない。いかんせん色も形も何にも見えないのだ。味覚嗅覚はあるものの、何年も受動的に与え続けられているとそもそもそれが何なのかを判断する意味も必要もなくなってくる。

腹が満たされた男は、再び口笛を吹き始めた。

「それにしても面白い。"孤独も無も崇高"、ねぇ...」

呟きと共に足音が遠のいていく。
穴の中からは、伸びやかな男の口笛だけがいつまでも響いている。


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