見出し画像

沈む寺 #毎週ショートショートnote

「はじまりは、寺だった」

老人が遠い記憶を思い出すように話し出した。

「なんの前触れもなく日本各地の寺が沈み、静かに地面に消えていった」

「どうして?」

少年が聞く。

「それが全くわからない。沈んだ場所を掘り起こしたが、本当に消えてしまったように何も出てこなかった。だから人々は、困惑しながらも新たに地上に寺を建て始めた」

「今ある建物って、全部そうなの?」

「ほとんどがそうだ。寺の次に沈んだのは学校だった。その次は公園、神社、文化施設…数年から数十年おきに起こるそれは、何が原因で一体どんなカラクリなのか、何年経っても誰にもわからなかった。しかし、ある建物が沈んで、その現象はぴたりと止んだ」

「へぇ〜よかったねぇ。作り直すの大変そうだもん。最後の建物はなんだったの?」

「国会議事堂と言う。白亜の殿堂とも言ったかな」

「なにそれ?僕知らない。今新しいのはどこにあるの?」

「今はどこにもない」

「どうして?」

「人々が誰1人として新たに建てようとしなかったからさ」


(422字)


サポート、嬉しいです。小躍りして喜びます^^ いただいたサポートで銭湯と周辺にある居酒屋さんに行って、素敵なお店を紹介する記事を書きます。♨🍺♨