父親(7)
父親の枕元に座って15分間。20年間の疎遠を埋める時間としては、あまりに不十分な時間だ。でもEさんは、ようやく訪れた再会の時間を持て余してもいた。
彼は、この時間を恐れて、両親と疎遠にしてきた。彼等の老いや死と向き合いたくなくて、それらを遠ざけてきた。でも今、その両方を突き付けられている。
「もう、帰るよ」。耐え切れず、宣言する。「また来てくれよな」。記憶とはぐれた父親は、20年も会いに来なかった息子に向かって事も無げにそういう。
「次」のことは、想定していなかった。不用意にそれを約束したら取り返しのつかない嘘になってしまう気がして、「じゃあ」とだけ言い残して背中を向けた。
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