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誰とも

誰とも関わらず、何とも触れ合わず、1ミリも移動せず。それこそが最大の解決策だ。そんな風潮に疲れた早春の頃、Oさんが雪山に私を連れ出してくれました。

それこそ誰もいない林道を2人、無言で歩きながら、私は久しぶりに、自分の呼吸や横隔膜と対話していました。

だいぶ先を行っていたOさんが、大木の根本に私を呼びました。その木の幹の周りだけ、ポッカリと雪が解けています。

「根開きというんです」とOさんに教わりました。「冬枯れの木でも、今頃には幹の中で水の吸い上げが活発になって、木の『体温』が上がるとも聞きます」。

雪景色の中で、無機物のように立ちすくんでいる古木でも、雪を解かす熱を持つ。縮こまって暮らす私たちだって、きっと。

カサついた樹皮に触れながら、私は、何もいわない1本の木と、何もいわないOさんに何かを教えられた気がしました。


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