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父親(8)

父親を見舞った翌日、母親からの留守電が残っていた。「お父さんに聞いたら、あなたは来てないっていってたけど、結局、行かなかったんでしょうか」。

一瞬、Eさんは、自分の記憶を疑った。「あるいはあれは、父親との関係を修復したい潜在意識が作り出した幻想だったのか」と。そして1人、笑い出した。

父子は、確かに昨日、丘の上の市民病院で再会し、言葉を交わした。何かがつながった気もした。でも認知症の父親の記憶の中には、その再会は存在しない。

そういうオチだ。結局、会う意味なんてなかった。少しセンチメンタルになっていた昨日今日の自分を客観的に思い返し、Eさんは、自嘲気味に笑っていた。

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皮膜
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