ノリモノコワイの話
韓国とか鹿児島とか米子とか飛行機に乗る機会が多いここしばらくだった。
空港はとても好き。
なんとなくみんな幸せそうだ。
空港限定のお菓子もいい。
フルーツとか名産品とか九谷焼とか謎な自動販売機も面白い。
ちょっと早めに行って空港ご飯を食べるのも嬉しい。天むすとか空弁でもいいよね。
でものんびりし過ぎると走ることになるの辛いよね。
あと、思いがけない誰かに会うのも嬉しい。今回はなんと稲川淳二さんに遭遇してしまった。
プレスリーは好きにならずにいられないと歌っていたが、私は話しかけずにはいられない。稲川さんはあのままのお声で優しくて、こんな私のことも知ってて下さりいっぱいお話して下さった。
感動だ。
実は私は空港は大好きなのだが飛行機がちょっと苦手だ。「特攻野郎Aチーム」に出てくるコングの決め台詞ではないが「飛行機だけは勘弁な」という気持ちでもある。
前は好きだったのになぁ。
そんないつの間にかコング化してしまった私がモーレツに恐怖を感じた出来事がある。
とある国内旅行の帰り、機内はほぼ満員だった。
順調に帰路に向かって飛んでいた機内だったが突然モーレツな石油の匂いが充満した。
子供の頃、石油ストーブのタンクにお醤油チュルチュルで石油を入れていた時のことを思い出す。ある年から電動になり、よく石油を入れすぎて玄関にこぼしていた。今思うとだいぶ危ない。
周りもザワザワし始めた。
鼻の悪い私がここまで分かるんだから結構な匂いなんだろう。
前の席の散々旅を楽しんであろうギャルたちはスマホを取り出し「え、ヤバい?ヤバくない?」と動画を撮り始めた。
CAさんはバタバタと我々の頭上の荷物入れを開けたり閉めたりしている。驚くほどの緊張の走った表情で「大丈夫ですよ。落ち着いてください。」とみんなに語りかける。
前方に座ってた女性が気分が悪くなり、斜め左の少年は泣き叫んだ。つらい。こわい。
そんな中私の二列ほど前の右側に座ってた男性が「あの…」とCAさんに声をかける。
そしてカバンからおにぎりを取り出し、「この匂いではないでしょうか」…
え?おにぎり?違うと思う…
と私はひっそり思ったがCAさんは実に真面目な表情で真剣に「失礼します」とおにぎりの匂いを嗅ぎ「これでは、ないようです。ありがとうございます。」と一言。
「そらそうよ!」うっかり阪神の岡田監督化しそうになった。
でも、そのおにぎりおじさんのおかげでなんとなく我々の周りは緊張が解けたような気がする。
結局何事もなく飛行機は無事に到着した。
動く歩道の上にはいつもよりドッと疲れた私がぼんやり運ばれていた。
果たしてそのおじさんが機内の異常な緊張を緩和させる為におにぎりを取り出したのか、それともガチで自分のおにぎりが原因だと思ったのかは正直わからない。
生き死にがかかっていなくてもピリッとする場面ってたまにある。
いい意味のピリッは鰻における山椒のよう、もしくはスイカにおける塩のようでとても良いんだけど悪い意味のピリッにはなるべく遭遇したくない。
そんな時に、ピリッの矛先を変えられるような軽やかな生き方が出来たらと思っている。