いつも頭上に、ゆでたまご
去年のいつだったかの、まだ日が高い時間。
疲れきって横になり、うすらぼんやりと霞んだ頭としょぼしょぼの目で、ぼーっと天井を見上げていたときのこと。
明かりのついていないシーリングライトのランプシェードが、白くてまあるくてすべすべで、「ゆでたまごみたいだな」って。
「……ゆでたまごだな?」 って。
それ以来、あおむけに寝るといつも視線の先にゆでたまごがある状態だ。
「ゆでたまご」とは言ったものの、殻をむく前のスタイルなので、それが本当にゆでたまごなのかと問われれば答えに窮する。厳密に言えば「たまご」……いや、そんなことないな。あれはゆでたまごだ。どう見ても生たまごではないし、温泉たまごでもないし、ましてや有精卵でもない。天井でひよこが生まれてたまるか。
ゆでたまごといえば、ぽこは小さいころからたまごサンドが好きだ。
朝は何を食べるでもなく枕に埋まっていることが多いぽこだが、無意識に冷蔵庫を開けてたまごを手に取った朝は、ちょっと調子がいい。サンドイッチを作ってコーヒーまで淹れてしまう朝なんて、明らかに調子がいい。
小鍋にたまごをことんと入れて、おおよそ13分、ぐらぐらとゆでる。流水で冷やしてつるんと殻をむき、フォークでつぶして塩を撒いたら、胡椒を振る。胡椒を振る。胡椒を振る。あらびきの黒胡椒を振る。そしてマヨネーズで和える。
できあがったたまごサラダをふわふわの食パンに乗せたら、もう一枚のふわふわでもって、ぱふん、と挟んでやるのだ。おふとんだ。ぽこも食パンかぶって寝たい。
ところで、たまごサンドには黒胡椒をたっぷりだが、ハムサンドには和からしをたっぷり塗るのが好きだ。和からしだけだと塗りにくいし、なんだかパサついてしまうので、先にマヨネーズと混ぜる。朝から摂ろう刺激物、常人がむせて涙ぐむ程度がちょうどいい。ときどき自分もむせる。
たまごなりハムなり、食パンで挟んだら一度ぴっしりとラップをかけ、重しの皿をかぶせて少しだけ冷蔵庫で寝かせる。きれいに切り分けやすくなるし、具がしっかりと冷え、パンに馴染んでおいしい。
自他の境界ははっきりさせておくべきだと思っているが、サンドイッチに関してはちょっと曖昧なくらいがおいしい気がする。
たまごサンドは具がたっぷりしているのが好きなのだけど、あの天井のゆでたまごで作るとなると食パンは何枚あればいい……? マヨネーズは何本……?
気になって今メジャーをあててみたら、これ直径40㎝はあるな。動画で見たダチョウのたまごより遥かにでかい。何人前になるか見当もつかないが、もし余ったらお昼やおやつにとっておけばいいか。冷蔵庫で二度寝コースだ。ついでにぽこも涼しいところで寝たい。
一日を終えて、いいかげん寝るかと常夜灯に切り替えれば、電球色の黄味の強さも相まって、暗がりのなかではっきりと黄身の存在が浮かびあがる。やはりあれはゆでたまごなのだ。確信しかない。
寝ても覚めても頭上にあるゆでたまご。そういえば、あれは半熟なんだろうか、固ゆでなんだろうか。たまごサンドの仕上がりにかかわるから、そのうちわかったら嬉しい。
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