わたし。
.
恥ずべきことの多い人生を送ってきました。
あるよく晴れた暑い夏の日、半身不随になって長らく経った祖父は、数々の病の犯され、病室の窓から嫌と言うほど覗き込んだおてんとさまに看取られながら、息を引き取りました。
幸が多いとは言えない私が幸せに歩めるようにと、ヨレヨレな字で書き残して。
不器用に生きてきました。
何をやっても上手にできませんでした。
当然、素直な愛の受け取り方も与え方も知らず生きてきました。
そんな自分を取り繕うように言い訳も時には嘘でさえも、たくさんたくさん、重ねました。
間違いもたくさんしました。
授かった体を削るかのように。
そうしてできた、つついたら今にも崩れてしまいそうなハリボテのわたし。
そんなボロボロなハリボテを見てでしょうか。
亡くなる直前の自身の痛みを嘆いているはずの祖父の日記には、そんなボロボロな私を嘆く言葉と私が幸せになる願いの言葉で溢れていました。
セミがうるさいほど鳴く季節、衰弱し、言葉も発せなくなり、視界が見えているかもわからない祖父のことを何度も思い出します。
.
絵が描くことが好きだった祖父は、まだ意識がハッキリしていた頃、私に「黒の濃い鉛筆が欲しい」と頼みました。
ちゃらんぽらんだった私は、いつしかそんな約束を忘れ、衰弱していく祖父の姿から逃れるように、お酒に酔い潰れる日々でした。
そして、結局、今も鉛筆は渡せぬまま。
.
セミのうるさく鳴く季節、
ちょうど1年前の今日。
AV女優の「日向ひかげ」がこの世に送り出されました。
後ろ指刺されることには慣れっこだったので、日向ひかげになったことによって、からかわれたり、悲しまれたり、罵倒されたこともありますけれど、悲しかったですが、それほど痛くはなかったです。
心が痛いことは、生きてきてたくさんありましたから。
不器用を言い訳に、捻くれて、迷惑たくさんかけてきたので、何処行っても歓迎なんてされなくて当然とさえ思っていましたし。
けれども、皆さんは、そんなわたしを見つけてくれて、日向ひかげ、を歓迎してくれましたね。
歓迎どころか、中にはAV女優のその先のわたしを見てくれて、お話しようとしてくれたりして。
仲間もいっぱいできました。
仲間とは、お土産を交換しあったり、ファミレスでくだらないことからお仕事、恋のこととか、女の子らしいお話をしたり。
時に仲間は、時間や財産を投じてまで、私を支えてくれました。
皆さんにも、仲間たちにもまだちっぽけな私に、財産を投資してまで支えてもらって、自分が情けないな、なんて今でもたまに思いますけれども。
自信を持って、心からどうもありがとう、と近い未来に言いたいな、なんて思います。
.
AVのお仕事をするにあたって事務所に所属しているんですが、
おじさん2人で回してる決して大きくはない事務所なのですが。
未だに行き違ってしまったり、私が見切り発車しちゃって怒られたりとかして、同じ事務所の女の子になんなんだ、なんて愚痴ったりしてしまうんですけども(笑)
私がやりたいことを背中を押すかのように根回ししてくれたりとか、私が具合悪かった時はビタミン剤やポカリの入った袋をドアノブに引っ掛けて去っていったり、思うような結果にならずヤケクソな私を適当になだめてくれたり、ヘマした私の代わりに頭下げて回ってくれたりですね。
決して過保護にされたことはないですが、人との信頼関係の構築が下手くそな私に、歩んでいけるレールを敷いてくれて、本当にありがとう。
.
ミルクティーが大好きなんですが
AVのお仕事が上手にできず、落ち込んでいた翌日の撮影で、いっぱいミルクティーが置いてあったことがありました。
実は立ち止まってしまって、休んでいた時期があったんですが
しばらくぶりの撮影で、「甘やかすことはしませんが、ひかげちゃんには頑張って欲しいので差し入れをしたいと思います。好きなものはなんですか?」と聞かれ、カフェのミルクティーをわざわざ差し入れてもらいました。
ミルクティーを通していっぱい優しさをもらうことになると思いませんでした。
撮影メーカーさん、見ず知らずだった日向ひかげを支えてくれてありがとうございました。
.
私のような口だけの甲斐性なしはもう一生愛されることはないだろうと、
愛を諦めた私が、たくさんの愛に巡り合うことができました。
捻くれきってだらしなくなった私に、この業界に入ったことによって責任感も生まれました。
遅刻しなくなりました。
申し訳ないと思うようになりました。
ありがとうと、心から、言えるようになりました。
皆様へ。
ひかげで縮こまっていた私を、見つけてくれてありがとう、心から。
.
デビューしてから1年。
来る日も来る日もえっちばかりして、えっちと向き合ってきて、ひとつの答えを出しました。
「セックスってなんだろう?」
私にとっての、セックスとは私史上最大の愛情表現です。
不器用で、手を繋ぐことよりも先に交わることを終えた私だからこそ。言葉を要しない時代から紡がれてきたからこそ。
最も大切にしなければならない愛情表現です。
不器用ですから、言葉を要しない肉体の交わりでその先に素直な私を見つけることができました。
陰のパワーって凄いですから、これからも自分の捻くれているひかげの部分も大事にしていこうと思ってるんですけど、
けれどそれ以上に素直ってきっと可愛いですね。
容姿や性格に相変わらず自信があるわけじゃないんですが、えっちは私にとっての史上最大の愛情表現ツールですから、エッチしている瞬間の素直な自分が、私史上、一番可愛い日向です。
エロビデオ出てる奴が何言ってるんだよ、と思う方もいらっしゃるとは思いますが、
私は今心から言えます。
たくさんの愛に出会うことができて、幸せです。
.
確証のないものを信じるのはあまり好きではないので、
天国があるのかどうかもわかりませんが、
幸せでした、と胸張って言える人生を送りたいと思います。
天国があれば、その時は、忘れずに鉛筆も持って。
.
戦って亡くなった人、寿命を全うした人、間違いを犯した人、自死を選んだ人さえも、正解は誰にもわかりません。
正解は、その人だけが知っています。
皆様がより多くの愛に巡りあう人生を送れますよう。
.
1周年を迎えて2年目の目標は「原点回帰」です。
私が脱いだところだどうせ売れないだろ、という気持ちとは裏腹にヒットを記録してしまったデビュー作。
時間の経過と共にデビュー作の怪しげで儚い少女のイメージとはかけ離れ、「面白い人」「変な人」という印象がついてしまい、
挙げ句の果てに芸人のオーディションに参加してみてはどうか?というお誘いまでいただいてしまいましたが
私は「AV女優」でございます。
デビュー作、2作目以降、目立ったヒットが見られず、それでも背中を押していただいて細々とやって参りましたが、
皆さんからいただいた愛と魅力値パンチで必ず、原点回帰を果たしましょう。
2年目のうちに1000本売れるまで帰れません!リリースイベントツアーとかやりたいですね。
私はものづくりが大好きで、絵を描いてみたり、デザインを勉強したり、楽器を弾いてみたり、演劇をしてみたり、歌を歌ってみたり、と色々と挑戦してみたんですが、どれも上手くいかず…。
ですから、能力の何もない私が、制作物の一部になれるってすごい光栄だと思うんです。
若いAV監督さんは、アーティストですから、圧かけられがちな業界ですけれども、作りたいものをたくさん作っていって欲しいなって思います。(偉そうにすみません)
荒削りのAV女優ですけれども、たくさん寄り添って、エロビデオという制作物のひとパーツとなって監督さんたちの思い描く作品を、ひとつでも多く世に出せたらいいなと思ってます。
これからも皆さんといっぱい楽しいことしますから、皆さん夏の暑さに負けず一緒に長生きしましょうね。
2023年8月16日
1周年を迎えた日向ひかげより
この記事が参加している募集
ここからサポートできるらしいです。いわゆる投げ銭というやつですね。ひかげはここから得られる収入を集めてハンバーグを食べたいと思っています。