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「学生指導」は「子育て」に似ている

医療系の専門職では、養成校 (大学または専門学校) 在学中に、臨床実習といわれる現場での実習があります。

実際に病院やクリニック、介護老人保健施設などに数週間通い、そこで職員から指導を受けながら、見学や業務の補佐などを行います。
(一般企業のインターンシップに近いイメージです)

私の勤め先でも、年間あたり数人の実習生を受け入れていて、私も指導者として学生を指導する立場にあります。
ただ、今回担当することになった20歳の学生が、なかなかの強者なんです。

まず、「おはようございます」「よろしくお願いします」「ありがとうございます」 といった基本的な挨拶やお礼の言葉が言えない。
自分から指導者に指示を仰ぐことができず、部屋の隅で棒のように突っ立っている。
私の仕事の様子 (患者さんにリハビリをしているところ) を見学した後に、質問をしてみると「う~ん」と言って20秒間無言。その後、若干的外れな答えがポロっと返ってくる…。

今まで様々なタイプの学生を指導してきましたが、ここまで
「おいおい、大丈夫かっ!?」
っていう学生は初めてで、関わり方に苦労しています。

いくつかの実習を終え、国家試験をパスすれば、後1年半で現場に出なければいけない大学3年生の段階で、この状況はひどすぎるのではないか?
何で私がこんなに手間のかかる学生の面倒を見なきゃいけないんだっ!

当初は、こんな黒々とした気持ちが心の大半を占め、 仕事を終え家に帰ってからも、それを引きずってしまっていました。
学生の「できる」「できない」によって、その指導に掛かる時間や労力がまったく違ってくるので、言葉は悪いですが「学生ガチャに外れた気分」だったのです。

ですが、実習期間はまだまだ残されています。
ここはもう、相手の短所をあげつらうよりも、自分の考え方を変えていくしかないっ!と腹を決めました。

よくよく学生の話を聞けば、前回の実習では、経験すべきことをほとんど何も経験できていないようで、何もかもが「初めて」だといいます。
また、対人コミュニケーションに強い苦手意識があることが分かりました。

そこで、私は、とにかく「待つ」ことにしました。

まずは、毎日同じ時間に学生の方から指示を確認しにくることを約束し、学生が声をかけてくるまでは指示だしせずに、ひたすら「待つ」。
質問を促して、なかなか言葉が出てこなくても、眉間にしわを寄せずに「待つ」。

わざわざ待ったりせずに私の方から説明や指示をしてしまった方が手っ取り早いけれど、これではいつまでたっても学生は自分から動けないままです。

この感じ、まさに「子育て」です。

子ども達がお着替えを練習しているとき、親である自分が手伝ってしまった方が早いけれど、グッとこらえて辛抱強く見守る。
ただし、どうしても難しいところは部分的に手伝ってあげる。

「子育ての経験が仕事に活きる」ってよく言いますが、正直今まではそれを実感する機会がほとんどありませんでした。

ですが、今回の実習指導では「子育て」の経験があったからこそ、学生に対して少し寛容な対応ができたかなと思います。

社会に出て基本的な挨拶ができなかったら、誰も相手にしてくれないかもしれないけれど、彼はまだ「学生」で、社会人としてのマナーも含めて「学び」に来ているのだから、こちらが歩み寄る必要があるのではないか?と切り替えることができました。

まぁ、これらの関わりが功を奏すかどうか分からない所も、ちょっと子育てと似ていますよね。
「ありがとうございます」と言われなくても、数年後にそう思ってもらえることを僅かに期待しています。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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