“HONEY-BUNCH” X’masの魔法 [re:pairs]
それは北の北のそのまた北に位置する、とある人里離れた街の話。
その街は雪の降る季節がやってくると、毎年のように街をあげての様々な趣向を凝らした盛大なパレードがに行われ「Christmas town」と呼ばれていた。
しかしある年から異常気象がおき、パタリと雪が降らなくなってしまった。
大人達は「雪が降らなければノエルは行えない…」と、ただじっと春を待つだけの年が続いた。
「Christmas town」と呼ばれていたことは過去になり、いつしか誰もがそのことを口にしなくなり、街はしだいに活気を失っていった。
街の外れに「HONEY-BUNCH」という小さなケーキ屋がある。
ノエルを行っていた頃は街の中心に大きな店を構えていたのだが、皆がXmasを忘れていくのと共に、街外れに追いやられてしまったのである。
その店の主人であるサローニ。
彼は今となっては街の唯一のパティシエであった。
サローニはXmasを失っても尚、毎年毎年願うように小さなブッシュドノエルを作っていた。
今年も雪が降らないとわかると、内緒で数人の子供達を集め「来年は雪が降りますように…」と祈り、ささやかなノエルを行うのである。
ある年の冬の終わり、その年も雪は降らず秘密のノエルをしようと子供達に呼びかけた。
ところが大変なことにその話がウッカリ大人達の耳に入ってしまい、サローニは街の役場へと連れ去らてしまった。
「サローニ、君の気持ちもわからなくもないが、やはり雪が降らなければノエルは行うことはできない..それがこの街の永年の伝統なのだ。
あの異常気象から数年、この街にはもう雪は降らないだろう、君もそろそろ諦めたまえ」
しかしサローニは退かなかった。皆がXmasを諦めてしまったから雪は降らないのだと。
またこの街が「Christmas town」と呼ばれていた頃のような活気を取り戻すのだと、僕は最後の一人になっても祈り続ける、と。
「サローニ、仕方ない。この街の皆はようやくXmasを失ったかなしみから立ち直ろうと、忘れようとしているのだよ。
君一人のために皆の心を乱すわけにはいない。サローニ、悪いが少し頭を冷やしてくれ」
そう告げられるとサローニは役場の牢に入れられた。
しかしそうなっても諦めずに祈り続けた。
牢の鉄格子から見える小さな空を見上げながら….
その時、サローニはもう暗い空に一筋の流れ星が駆け抜けたのを見た。
奇跡は起きた。
主人を失った「HONEY-BUNCH」の暗い店内。流れ星のような一筋の光が落ちた。
サローニの作ったブッシュドノエルの上で眠るサンタと小人、そんなXmasを彩る様々なマジパン達がその光に包まれた。
はじめに一人二人と小人達が大きなあくびをし、Xmasの楽しげな歌を歌いはじめた。
サローニのブッシュドノエルの上で開かれる小人達のノエルミュージカル。
歌と光に包まれた店内は魔法にかけられたようにXmasの彩りに飾られ、赤や緑、黄色や青、ツリーには大きな星にたくさんの飾り、暖炉には火が灯り、テーブルの上にはいっぱいXmasのごちそうが並べられた。
「HONEY-BUNCH」で行われるひそかなノエル。
その歌と光は街外れから街へと広がりだし、木々にはたくさんの電飾が灯り、街はすっかり当時の「Christmas town」の彩りを取り戻しつつあった。
サローニの秘密のノエルに毎年行っていた一人の少年。サローニが牢に入れられたと知り、役場の前で泣き尽くしていた。その少女の頬に涙とは違う冷たい感触が伝った。
「雪だっ!」
少年が街中を駆け回り雪の知らせを伝えきる間にはもう雪はすっかり降り積もっていた。
街の皆はこの奇跡に心の底から喜び、ノエルの歌を謳歌しはじめた。
その光景を見た役場の一人がサローニのもとへ駆けて行った。
「サローニ聞いてくれっ!大変だっ」
サローニは役人から話を聞くと釈放されるやいなや、外へと飛び出して行った。
街はすっかり雪の化粧と様々な電飾や飾り彩られ、人々は歌い踊り、あちこちでパレードが行われていた。
その光景を見たサローニはこの奇跡に感謝し涙した。
「サローニ、すまなかった。君がXmasを諦めなかったからこそこの奇跡は起きた。勝手な願いだがまたこの街のためにケーキを作ってくれないかね?」
サローニは微笑み、また忙しくなりますね..と告げると「HONEY-BUNCH」へと駆けて行った。
この年の不思議な出来事は「HONEY-BUNCHの奇跡」と語り継がれるようになり、いつまでもいつまでもサローニと街の人々は幸せに暮らしたとさ。
めでたしめでたし
執筆の背景
もう廃盤になってしまっていますが、ネオ渋谷系のレーベル
「ブルーバッチレーベル」からリリースされた本作品
クリスマスになると必ず聴きたくなるドリーミーでポップなハイセンスすぎるキラキラの楽曲たち
YouTubeの非公式かと思いますが(汗)、超名盤なのでよかったら聴いてくださいまし!
当時、ヘアサロンというソロユニットをされていたK山さんと交流があったので、このアルバムからイメージして書いた作品です。
本人もとても喜んでくれました。
当時のサブカルど真ん中のたくさんの仲間と絵本にする話になってましたが、いろいろあって暗礁に乗り上げました(笑)。
そう、マスタリングはあのPlus-Tech Squeeze Boxのハヤシベトモノリ氏。
その界隈では超有名人ですよね。
こちらは各種サブスクで聴けるので知らない人は必聴ですね。
いまだにテレビでもたまに使われてますね。
脳内にカラフルな音がドット一気に押し寄せます。
世界が震撼したサンプリングの嵐!!
“HONEY-BUNCH” X’masの魔法
特に版権などはないし、当時も同人レベルで書いたもので契約もないのでので誰か絵本にしてください(笑)
それではまた。
▶︎note創作大賞 [re:pairs]シリーズ(過去作のリペア作品集)
・「ニシンのパイ〜彼女の憂鬱〜」
・モノローグの雨
・主婦の戯れ〜のろけ話、お熱いなれ初め編
・“HONEY-BUNCH” X’masの魔法
・行楽シーズンのバイト
・ペットと飼い主 -pet shop owners-
・注文の多い立ち食い蕎麦屋
・不可解な詐欺
▶︎note創作大賞ノミネート作品 [Re:電脳虚構]
作品リストリンク
01 善意の都市 -bad? intentions-
02 人生テトリス -identity-
03 マッチング・アベニュー -encounter-
04 秘密の花園 -Lady Player One-(書籍未収録作品)
朗読作品リンク
01 善意の都市 -bad? intentions-(朗読:水乃しずく)
02 人生テトリス -identity-(朗読:やなせなつみ)
03 マッチング・アベニュー -encounter-(朗読:やなせなつみ)