砂山影二「銀の壺」掲載原稿 4
「銀の壺」第4号です。編集後記は、「私のページ」とまた変わりました。印刷工場の開いた時間を使って、編集・印刷をしている影二の様子が覗えます。
「銀の壺」第四號
大正七年十一月月三日印刷納本 ・ 大正七年十一月五日發行
P43 『夏より秋へ』
中野草夢
ひるすぎの停車場に来て友とふたり人ごみの中に汽車来るを待つ
いと長き合圖の笛の心よさ汽車はなりて汽車出づるかも
ひとしきり音してやがてしづかにも動きそめける汽車なりしかな
ゆらぎ出づる汽車の窓より顔出して見上げし空は高く晴れをり
あちこちに窓しめる音汽車今しトンネルの中に入らんとすも
ふけにける夜半音なくたゞ青き月かうかうと冴江てゐるかな
立待の岬に今日も来りては岩うつ浪にしたしめるかも
夕近み大森濱の白砂に立ちて見つむる水平線かも
入院の夜はねむられずどこやらん氷を砕く音のきこゆる
病院のまよなかかなし幼な子の近くの病室(へや)に死ぬけはひすも
秋雨の降る日さびしも職工にまじりてわれは今日も働く
しみじみと雨の降る日をさぶしくも小唄うたひつわれは働く
何やらん物足らぬ日のつゞくなり今日もしみじみ秋の雨降る
飄然と酒場に入りてかなしくも飄然として出でたる夜ふけ
P53 ■私のページ■
本當に毎月出せたらどんなにいゝだろ。
そのうちには必ずさうしたい。
ページが少なくなつたのと、口繪がまた一枚になつたのと、急にすこぶる貧弱になつたやうに見江る。けれど紙價いよいよ暴騰でもつて、十銭であれだけのものにするには、同人があまりに多大なる負擔に苦しむ。
でも内容はますます充實してくる。うれしいことである。
夜業がはじまつてゐる。今度などは、朝暗くから起きて、職工が工塲に出てくるまで、ひとりでコツコツやらねばならない。おそくならなければいゝが………………………心配でならぬ。
どんなに苦しんでも、本となつてしまへば、實にうれしい。
第五號は一月に出したいと思つてはゐるが、或ひは二月か三月になるかも知れない。あらかじめおことはりしてをく。
私は印刷屋の息子――どんなことあつたつて、止めるやうなことがないから安心だ。
ではそろそろ第四號の制作にとりかゝらう。
(七・九・二九・夜)