銭湯の牛乳のひみつ
銭湯あがりの牛乳は、仕事終わりのビールより美味しい。
そう思うのは私だけなのだろうか。
家からバスで10分のところにある銭湯からの帰り道、上機嫌で鼻歌やら独り言やらをばら撒きながら歩いていた。
私は歩くのが好きで、人の少ない夕方の道が好きだ。
「今日は意外と夜風が涼しいなあ。あ、こんな所にいい感じの中華屋が。」と独りごちても誰も振り向かないし、気に留めもしない。そのくらいの自由さがいい。
それてしまった。銭湯の話だった。
その銭湯には初めて行ったのだが、家から近いしサウナも露天風呂もあるという贅沢中の贅沢な銭湯だった。
ちょうど夕方の6時。
常連のご長老たちが挨拶を交わしている中に、恐る恐る入る。口角をキュッとあげた可愛い若い女の子風な私を採用して、目をつけられないように頑張った。
知らない場所は好きだけれど、結託の強い未知の集団にポンと入るのは好きでは無いのだ。
しかし、そんな心配は全く無用で、みんなホカホカの顔で誰も怖くなかった。
コーヒー風呂やら、電気風呂やらに入ったあと、小さな露天風呂に向かう。
「あなた、ちょっと痩せたんじゃない?綺麗でいいわねえ。」
ちなみに、私に向けられた言葉ではない。
隣でキャピキャピしていた、おばあさま方の会話だった。いくつになっても、女性は綺麗でいたいと思うものなのだ。
今の自分の容姿にあれこれと文句をつけている私は、この先もずっとこの体と向き合うならば、若いときくらいは若さに任せて伸び伸びさせておくか、なんて思った。
人生、先は長い。
露天風呂から見えた小さな空は、夕日で少しだけピンク色に染まった、綺麗な青空だった。
身体の芯の芯まで温まった私は、湯上りの牛乳をおいしくいただいて銭湯をでた。
そよ風の涼しさが、「歩こうよ」と言っているようで、調子に乗った私は30分の道のりを歩いて帰った。
帰った途端、寝不足だったことを思い出したかのように体は重くなり、深く、深く眠った。
翌朝の私は、とても元気だった。
これも、あの牛乳のせいだろうか。
photo by Pixabay