作者・作品・クリエイティビティ
現代におけるクリエイティビティとは何か、の前に作品と構成要素との関係性から説明しよう。
作品は普通複数の要素を関係づけて成立している。要素の「特徴」と「性質」をこの文章だけの特殊な用法で使おう。「特徴」は作品の中にあるもの、「性質」は作品の外と関わるもの。具体的には、特徴は形・線・色そのもの、性質は見る者の脳内で発生する印象・(他作品や時代性の)文脈となる。青い色は特徴、色の爽やかな印象は性質。ウサギというモチーフは特徴、シルバニアファミリー似なのは性質。
センスのない人は特徴だけ見て性質を見ない(勉強すれば文脈は分かるが印象を判断できない)。
ある要素を見たときその特徴がどんな印象なのかを判断できるのが「センス」。
センスには「精度」がある。類別・強弱・効果範囲を適切に測り微かな内容も見逃さない鋭敏さが高い精度。
精度の高いセンスを持つ人が作品を見ると要素の特徴から印象を正確に感知・判断する。モチーフ、色合い、線の角度や曲がり具合を間違えず把握しそれらのタイプ分けから共有可能性の質まであやまたず捉え、さらに文脈的知識が加わると複数の要素・特徴・性質とその関係性の総合である作品を明瞭に評価できるようになる。
現代におけるクリエイティビティとは「関係性の総合のコーディネート」だ。それぞれの要素の印象・文脈を捉えて関係づけ、関係性による効果を生み出す。構図は関係性の特徴、構図の文脈性は関係性による性質。色の変化や文体は関係性の特徴、それらによる脳内の印象やコンテクストは性質。
個々の要素の特徴や文脈性に頼っただけの作品は魅力が薄い。要素の印象、要素同士の関係性による印象まで計算して作ったものこそが魅力的なのだ。
そうした「制作のセンス」を得るには、作品から印象を感じ取る洞察力と、その印象はどの要素のどんな特徴が原因で、何の関係性から生じるどの効果によるものなのかを判別する分析力が必須。勉強して文脈を知り思い通りに仕上げる技術があっても印象が構築できなくては良くて二流。センスも技術もなければ箸にも棒にもかからない(勉強だけできると口だけ達者になる)。センスだけで技術がないと苦しい。
作品を良くする効果的な関係性を構築する為にはどうするか。
一流の作品に触れ、特徴をよく観察すること。脳内の印象を感じ取って記憶し、文脈を確認すること。一流の作品は要素同士の関係性による効果的な印象(いわゆる「組み合わせの妙」)の宝庫だ。まずその形を知り、印象を覚え、組み合わせをストックして身に馴染ませる。繰り返し思い出すうちに良さの秘密がきっと分かってくる。性質や特徴を利用して良い効果を作る関係づけの方法が。
それを続けていくことで、新たな組み合わせを作るコツも見えてくる。既存の「効果的な組み合わせ」の要素のひとつや、それに似た特徴・性質を持つ要
素を手掛かりに、相性の良さそうな別の要素を探せるだろう。試しに組み合わせて関係性による効果がどんなものか、自分で確認すればいい。あるいは関係性の性質そのものを頼りに、それを実現する違った組み合わせを探してもいい。異なるジャンル・メディアの作品を参考にすると必然的に独自性が出やすくなり、より良い・違った感触の関係性も生まれやすい。
制作において技術が重要なのは良い印象や効果的な関係性を作る為に特徴のディテールを調整する必要があるからだ。より良い効果の実現にはより確かな技術が不可欠となる。
そして作品にはどこか今という時代性を感じさせるものがなければならない(それはリアリティや切実さを纏う事だ)。自然に滲み出るものでもあるが積極的にキャッチし作品に込めていく事も試してみるべきだ。一流の作品の効果的な関係性を今の時代性によって構築する、もっと違ってもっと良いものにすることもできる。コツを掴んでセンスと技術を使えばできない事ではない。
魅力ある作品は「細部に神が宿る」。良い効果を生む関係性の構築は細部に神を宿らせる方法であり、文化を豊かに魅力的にする方法なのだ。