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シナリオの墓場2
はっかばすぞ!
スクールで提出した課題シナリオの供養を行います。2回目です。
スクールでは、5~6人の方々に作品の批評をしていただいており、お褒めの言葉をいただくこともあるのですが、それだけでは飽き足らず。
やはり1週間くらい腹痛めて産んだ愛しい我が子は、できるだけ不特定多数の人の目に触れて欲しいと思うものです。「産まなきゃよかった」と嘆く子もたまにいますが。
ページ数は20字×20行で10枚なので、そんなにお手間とらせないと思います。
課題:誘惑
「まにーまにー」
○人物
小倉琴音(20)大学生、吉田ゼミ所属
松島穂(みのり)(20)吉田ゼミ生
工藤有紗(20)吉田ゼミ生
前山志保(20)吉田ゼミ生
吉田(58)大学教授
小倉幸子(44)琴音の母
小倉響(14)琴音の弟、中学生
小倉美鈴(11)琴音の妹、小学生
①大学・吉田ゼミ教室
吉田(58)とそのゼミ生たち。
吉田「では、これからこの面子(めんつ)で仲良く楽しく学びを深めましょう。今日はこれで解散」
チャイムが鳴り、教室が騒がしくなる。
Tシャツにジーンズ姿の小倉琴音(20)、急いで帰り支度を始める。琴音、ボロボロの鞄からボロボロの財布を取り出し、中身を確認。
琴音「やば、全然ない。おろさなきゃ」
志保の声「有紗の財布めっちゃ可愛い!」
琴音が顔を上げた先には工藤有紗(20)と前山志保(20)。有紗と志保は派手な装い。有紗、高級な財布を持っている。
有紗「いいでしょ。パパに買ってもらったの」
志保「ヴィトンじゃん! いくらしたの?」
琴音、有紗の財布を羨ましそうに見つめ、自分のボロ財布に目を落とす。
穂の声「小倉琴音ちゃん、だよね?」
琴音が声のする方を向くと、清楚な身なりの松島穂(20)が立っている。
穂「途中まで一緒に帰らない?」
琴音「あ、うん。私ちょっと急ぐけど」
琴音、財布を鞄にしまう。
②同・中庭
琴音と穂が歩いている。せかせか歩く琴音、スマホを見ながら独り言つ。
琴音「バイト帰ったら文字起こしして・・・・・・」
集団でランニング中の野球部の1人が、後方から琴音にぶつかる。琴音、その弾みでスマホを落とす。慌てて拾うと、液晶画面がバキバキに割れている。
琴音「あー! ちょっとあんた・・・・・・」
怒って顔を上げる琴音だが、周りを見て言葉を失う。周りには、部活に勤しむ生徒、ベンチで一生懸命勉強する生徒、友達とふざけ合う生徒。琴音、彼らを見て悔しげにスマホを握りしめる。
穂「大丈夫?」
琴音、穂の声にハッとし、
琴音「うん。バイト間に合わないから行くね」
穂を残して走り去る琴音。
③スーパー・レジ(夕)
レジに立つ琴音が、怒鳴り散らす客に向かって必死に頭を下げている。
④下宿・琴音の部屋(深夜)
狭いワンルーム。
PCに向かう琴音。脇に置いてあるボイスレコーダーから音声が流れている。
眠気に耐えて文字起こしする琴音だが、Aキーを押したまま突っ伏して寝てしまう。文書に「あ」の羅列ができる。
ハッと目を覚ます琴音。PCを見て、
琴音「うわ・・・・・・もういいや、今日は」
琴音、ゴロンと床に寝転がる。
琴音「スーパーとファミレスとテープ起こしの給料が12万。そこから家賃5万、食費2万、光熱費1万、雑費に1万、あと・・・・・・」
琴音のスマホに着信がきて、応答する。
幸子の声「久しぶり。琴音ごめんね。仕送り、3万円も振り込んでくれてたやろ」
琴音「・・・・・・ええよ別に。それよか、皆元気?」
⑤ボロアパート・小倉家・リビング(深夜)
小倉幸子(44)が電話している。
幸子「元気すぎて困るくらい。父さん以外は」
小倉響(14)と美鈴(11)が現れる。
響「なになに、琴音姉ちゃんと話しとん?」
美鈴「母さんずるいーうちともかわって!」
幸子「あんたらまだ起きとん、早よ寝!」
⑥アパート・琴音の部屋(深夜)
電話越しの騒ぎを聞いて笑う琴音。
琴音「父さんに手術頑張ってって言っといて」
幸子の声「うん。あんたもいろいろ頑張りよ」
琴音の顔から笑顔が消える。琴音、黙って電話を切り、スマホを放り出す。
琴音「もう結構頑張ってるよ」
⑦大学・吉田ゼミ教室
帰り支度しているゼミ生たち。
琴音に、有紗と志保が近づく。
有紗「小倉さん、今夜吉田ゼミ生皆で飲みに行くんだけど、小倉さんも来ない?」
琴音「いや、私お酒飲めない・・・・・・」
志保「ゼミの親睦会も兼ねてるから。行こ!」
有紗と志保に強引に連れて行かれる琴音。その様子を見ている穂。
⑧居酒屋・店内(夜)
人で賑わう店内。
有紗らゼミ生たち、酔って騒いでいる。
机の上には空のジョッキと皿が大量。
ソファー席に座る琴音、不満げに烏龍茶を飲んでいる。琴音の隣には穂。
有紗「(呂律の回らない口で)じゃあそろそろお開きにしよ。会計は割り勘でいいよね?」
憤った琴音、何か言いたそうに腰を上げるが、堪えて席に座り直す。
琴音が鞄を探してソファー席を見ると、そばに有紗の財布が落ちている。
琴音、有紗の財布に目を奪われ、人目を盗んでその財布を鞄の中に突っ込む。
琴音、自分のボロ財布から千円札を何枚か取り出し、机の上に叩きつける。
琴音「ごめん。私用事あるから先帰るね」
急いで店を出る琴音。琴音を見る穂。
有紗、自分の鞄の中をごそごそ探して、
有紗「ねえ、有紗の財布は?」
⑨繁華街(夜)
歩いている琴音、その手にある有紗の財布をまじまじと見ている。
琴音「これがブランド物の財布。綺麗・・・・・・」
有紗の声「ちょっと!」
びくりとして立ち止まる琴音。琴音の背後に有紗が仁王立ちで立っている。
緊張して息を詰まらせる琴音。有紗、琴音の肩をつかんで、無理やり正面を向かせる。有紗、琴音が財布を持っているのを見て鼻で笑う。俯く琴音。
有紗「こういうことする人だったんだね。犯罪者じゃん。恥ずかしいと思わないの?」
琴音、俯いたまま、暗い声で、
琴音「親の金でイキってるだけのくせに何様」
有紗「は?」
琴音、ばっと顔を上げる。
琴音「うちの大学の学費いくらか知ってる?今の飲み会で自分がいくら飲み食いしたか知ってる? 知らないでしょ。何も知らないでいつもヘラヘラ笑ってるんでしょ」
言いながら涙目になる琴音。
琴音「私は、他のことする余裕もないくらいずっっと金(かね)のこと考えてるの。金(かね)金(かね)金(かね)金(かね)」
琴音、有紗に向かって怒りを露にする。
琴音「私だって勉強したいし部活したいし遊びたい。なのになんで・・・・・・なんで私ばっか金(かね)に囚われなきゃなんないのよ!!」
息を切らす琴音。
有紗「知るか。親ガチャ外したお前のせいだろ」
琴音、涙目で有紗を睨み、有紗の財布を地面に投げ捨てて走り去る。
琴音が曲がり角を曲がると、誰かとぶつかる。ぶつかったのは穂。
琴音「穂ちゃん・・・・・・」
穂「今までよく頑張ったね」
穂、琴音を抱きしめる。琴音、穂の腕の中で子供のように泣きじゃくる。
⑩バー・店内(夜)
カウンター席に並んで座る琴音と穂。
琴音は泣き腫らした目。バーテンダーが琴音の前にジュースを持ってくる。
穂「私のおごり」
琴音「・・・・・・ごめん」
琴音、出されたジュースを飲んで驚く。
琴音「おいしい。こんなの初めて飲んだ」
微笑む穂。
穂「琴音ちゃんの気持ち、分かる。私も昔はお金ない側の人間だったから」
琴音「穂ちゃんも?」
穂「お金のこと気にせずに充実した大学生活送ってる同級生見るとイライラするよね」
琴音「そう、そうなの!」
穂「不公平だよね。家が貧乏なだけなのに」
琴音「そだよ、うちらは何も悪くない!」
琴音、満足そうにジュースを飲む。
穂「だから私、琴音ちゃんを助けたい」
琴音「へっ?」
穂「絶対に儲かる投資があるの」
琴音の顔が強張る。
穂「投資金額の全額分の配当が確実に返ってきてね。素人でも簡単に始められるし、他のメンバーを紹介すると紹介料も・・・・・・」
琴音、慌てて鞄から財布を出しながら、
琴音「私、帰る。飲み物も自分で払うから」
穂「それおいしかったでしょ。2千円するの」
信じられないという顔で穂を見る琴音。財布をあさるが小銭しか入っていない。
穂「食べ物を素直においしいと感じられるってすごく幸せよね。今までは、まるでお金を食べてるみたいじゃなかった?」
穂を見つめる琴音、唇が震えている。
穂「人間の営みはお金を稼ぐことじゃない。稼いだお金で、好きなことしたりおいしい物食べたりすること、人生を楽しむことよ。琴音ちゃんはどう? 今、楽しい?」
琴音、思わずゆるゆると首を横に振る。
穂「私はお金を持つ側になって変われた。毎日が輝いて見えるようになったの。琴音ちゃんは努力家だし才能もある。あなたならきっと素敵な人生を手に入れられるわ」
穂、琴音の片手を、両手で包み込む。
穂「琴音ちゃんも、早くこっち側においで」
しばし硬直する琴音だが、導かれるようにもう片方の手で穂の手を握り返す。