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弦(ストリング)の素材・形状・特徴について
弓道、アーチェリー、ボウガン・・・・
弓は全てにおいて上下の末端に弦をかけています。
そして弦に矢を番え、引っ張って離して矢を飛ばしています。
1 弦(ストリング)に求められる性能
離れ(リリース)を行うと、変形していた弓は元の形に戻ろうと復元をします。
このエネルギーを使って矢は飛んでいきます。
その復元は、なるべく柔らかく収束することが求められます。
何を言っているのかと言いますと、例えば階段の2・3段上から飛び降りるとき、両足を伸ばして突っ張ったまま着地しませんよね?
そうしようものなら大きく体へのダメージがあります。
ですから必ず足首や膝関節を曲げつつ着地(衝撃を和らげる行動)し、元の体制に復元していくはずです。
これと同じことが弦(ストリング)でも言えます。
弓の復元時に弦(ストリング)は伸び縮みして衝撃を和らげる必要があるのです。
これが無ければ弦(ストリング)は金属のワイヤーでも良いわけです。
しかし、そうしたら弓がどんなことになるかは、想像に容易いと思います。
この弦(ストリング)が伸び縮みする性質を、力学的には弾性(だんせい)と言います。
変形はするけれども元の形に戻る性質を指します。
そして、このような性質を有する物体を弾性体と言います。
反対に、変形をして元の形に戻らない(伸びたら伸びっぱなし)性質を塑性(そせい)と言います。
そして、このような性質を有する物体を塑性体と言います。
弦(ストリング)には、弾性体としての性能が求められているのです。
これを数値で表すのがヤング率という数値です。
しかし悲しいことに、弦は弓の復元エネルギーを何回も何回も受けるに従って、弦は弾性体から塑性体に向かっていきます。
2 弦(ストリング)の種類と特徴
(1)弓道用
麻弦は天然の麻を原料としています。
また、合成弦はテクノーラやザイロンなどの繊維を原料としています。
現在では合成弦の方が一般的です。
繊維を捻って縄のようにしています。
この構造を「より線構造」と呼びます。
弦としてのヤング率が低い傾向にあるため、この構造にしています。
(2)アーチェリー用(現在は弓道でも積極的に用いられている。)
ダクロンやHMPE、ベクトランなどが主流です。
繊維で輪(ループ)を作り、両端にサービング原糸を巻き付けています。
この構造をここでは「ループ構造」と呼びます。
弦としてのヤング率が高い傾向にあるため、この構造にしています。
3 「より線構造」と「ループ構造」のメリット・デメリット
弓把(ブレースハイト)の調整は、
「より線構造」弦輪の結び位置を変えて高くする。=より数は変わらない。
「ループ構造」弦全体を捻って高くする。=より数を変える。
「より線構造」において、弦全体を捻って高くすることもできますが、先述した弦としてのヤング率が低いため、捻り力が大きくなっていくと破断しやすくなります。
従って、「より線構造」は弦輪式になっていて、弦の物理的な長さを変えて調整するしかありません。
ただ、弦にもよりますが、5回以内程度の捻りは、数ミリの弓把調整には有効ですし、問題ないと考えます。
「ループ構造」において、弦全体を捻って高くするため、弦の物理的な長さは変わりません。
また、弦としてのヤング率が高いため、捻り力に対する抵抗力もあると同時に、弦(ストリング)が伸びにくいのも特徴です。
従って、このような素材を弦輪式にしてもデメリットしかないことが分かります。
4 裏付け
(1)経験則
先ずは経験則からですが、過去に18年間アーチェリー競技に携わった中で、弦切れを一度も見たことがありません。
弓道ではおそらく皆様と同じぐらいの頻度で、麻弦や合成弦の弦切れを目撃していますし、自身でも多々あります。(といいますか、自身は弦切れするまで使います。)
しかし、ヤング率の高い「ループ構造」の弦においては、やはり弦切れを一度も見たことがありません。
以上は経験則ですが、明らかに弦切れの頻度は異なると言わざるを得ないと考えます。
(2)実証実験
自身は現在、合成弦(飛翔弦)を愛用しています。
過去にはひむか(ファーストフライト原糸)も使ったことがあります。
合成弦(飛翔弦)で次のような試みをしました。
弓把(ブレースハイト)の調整を、「弦輪だけで行った場合」と、「捻りだけで行った場合」の違いです。
明らかに捻りだけで行った場合の方が早く弦切れが生じます。
これについては、現在、数値的データを取っている最中です。
実験を終えたらここに公開しますのでお待ち下さい。
弓道に限らず、弦楽器等においてもその素材を用いている意味があると思います。
同時に、固定観念にとらわれることなく素材とその使い方の研究を進めていくことも面白いですね。